第4話『太陽を目指した背中』
PART 5
広実 | 蓮ノ小三角の前で写真撮影……!? |
小鈴 | そう! まずはスクールアイドル活動の中でも、 喋らなくていいところから始めようかなと思ってさ! |
小鈴 | 喋らなくて、動かなくていいこと。 喋らなくて、動くこと。 |
小鈴 | それから、ちょっとだけ決まった台詞を言うこと、 みたいに段階を踏んでいこうよ。 |
広実 | 師匠……そこまで考えて……! |
小鈴 | まずは広実さんのプロポーションを活かして! かっこよく、そしてかわいく! |
姫芽 | 緊張する~? |
広実 | そりゃっ……するに決まってんだろ! だって小三角の目の前だぞ!? 知ってるか小三角って!! |
吟子 | 相当緊張してるのは分かったね……。 |
姫芽 | 知ってくれてるのは嬉しいね~。 ちょっと心苦しいけど、プレッシャーかけてこうか~。 |
姫芽 | それじゃあ広実ちゃん。 |
姫芽 | アタシたちに負けないくらいのかっこかわいいポーズ、お願いね~。 しっかり見てるから~。 |
吟子 | うわ、容赦ない……。 |
広実 | く、ぐっ……本当に、アタシが……? |
小鈴 | 大丈夫! 広実さんのすらっとした手足は、本当に魅力的に映るから! かっこいい! |
広実 | 師匠……。 |
覚悟を決めて顔を上げる広実。 | |
広実 | 分かった……やってみる……! |
そう言った広実が、びしっとポーズを決める。 | |
広実 | こ、これで、どうだ! |
小鈴 | 吟子ちゃん、どう!? |
急に振り向く小鈴にびっくりする吟子。 | |
吟子 | 私!? え、ちゃんとかっこいい。 センスいいと思う。 |
スマホを構えた吟子が写真を撮る。胸を張る小鈴。 | |
小鈴 | 徒町の思った通り!! |
広実 | そして、こう! |
スマホを構えた姫芽が写真を撮る。 | |
姫芽 | 抜群のプロポーションじゃ~ん! 手足長いのがしっかり分かるね~! これは推せる、推せますよ~!? |
小鈴 | 吟子ちゃん、どう!? |
吟子 | だからなんで私……? |
吟子 | 実はこういうのもセンス出るんだけど……。 うん、ちゃんとというか、綺麗だよ。 |
小鈴 | じゃあセンスあるってことじゃん! すごい、吟子ちゃんも認める立ち姿! |
広実 | さらに、こうだ! |
スマホを構えた小鈴が写真を撮る。 | |
小鈴 | かっこいい! すごくかっこいいよ広実さん!! ね、吟子ちゃん!! |
姫芽 | ね~ね~、アタシは~? |
小鈴 | え、あ、ごめん! |
小鈴 | 姫芽ちゃんも服装とか、可愛いこととか、 画面映えとかにはめちゃくちゃ詳しいけど、 こういう綺麗なものについては吟子ちゃんが凄いと思うんだ。 |
小鈴 | 色んな綺麗なものを見て、誰に何が合うか、どうしたら映えるかとか、 衣装を作っていてずっと考えてきた職人さんだから! |
吟子 | そこまでと思われているのはちょっと恥ずかしいけど! |
小鈴 | だからね、かっこいい人の魅力的なポーズとかは、 徒町の知る限り吟子ちゃんが一番分かるかなって……。 |
小鈴 | はやく、徒町も吟子ちゃんみたいに自分で分かるようになりたいけど……。 |
吟子 | 私は小学校入る前から衣装に触れたりはしてるから、 あるとすればそこの経験値の差、じゃないかな……? |
小鈴 | それでも頑張る! |
吟子 | あー……なるほど、姫芽が言ってたのはこういうところか……。 |
姫芽 | 折りたくなってきた~? |
吟子 | そこまで言ってない! |
姫芽 | なるほど~。 アタシは吟子ちゃんが羨ましいですな~。 |
吟子 | …………まあ、評価はありがたく受け取るけど。 |
吟子 | センスは持ち腐れにしないで、こうやって活かしてこそ。 ちゃんとかっこよく見えるよ、広実さん。 |
小鈴 | だって! 良かったね、広実さん!! |
最後のポーズのまま、苦し気に広実が言う。 | |
広実 | も、もういいか……!? |
小鈴 | うん! すごいすごい! 緊張に負けてなかったよ! |
広実、脱力してしゃがみ込む。 | |
広実 | だあ~……! マジで緊張した……。 人の目にさらされるのは怖ぇ……。 |
腕を組んだ姫芽がうんうんと頷く。 | |
姫芽 | いや~、いいもんみたぜ~……スタイルが良いってやっぱり武器だねえ~。 |
姫芽 | で、どうかな。 小三角が誇る美的センスの塊、吟子ちゃんの大絶賛。 手応え、あるんじゃない~? |
拳を握りしめ、それを見つめる広実。手ごたえを感じている。 | |
広実 | 手応え……ある、かもしれねえ。 |
広実 | やっぱ……アタシがしてもみっともないんじゃないかって…… アタシなんかが張り切ってスベったらどうしようって…… それが原因、なのかな……。 |
小鈴 | 広実さんはもっと胸張っていいんだよ!! |
広実 | ああ。 ……そう、師匠が言ってくれたから、やれたんだ。 |
広実 | アタシは、自分のスタイルには胸張っていいのかなって…… ちょっと思えたから。 それを見せるんだったら、って。 |
広実 | 照れはあるし……口を開かないからできたのかもだし…… まだ自信がついたって言うには早ぇ気もするが……。 |
小鈴 | 自信がついたでいいんだよ! ひとつひとつやっていこ! |
小鈴 | 徒町も、ダンスの練習は右手だけ、左手も、 ようやく足もって覚えるんだ! |
広実 | 師匠……! ああ、分かった! 師匠のように、ひとつひとつ積み上げていくぜ! |
吟子 | なんか。 |
姫芽 | 良い師弟だねえ~。 |
小鈴 | 姫芽ちゃん、吟子ちゃん、ありがとー! おかげで良い特訓になったよー! |
小鈴 | さあ、広実さん! 喋らずポーズの次は……喋らず動く、だよ! |
広実 | 晴れてステップ2、ってことか。 動くって……なんか売り子でもするのか? |
小鈴 | ステップ2はねえ、ダンスだよダンス。 舞台度胸を鍛えよう。 一緒に踊るの。 |
広実 | へえ。 それならアタシも、気合が入るってもんだ。 ダンスというか、動くことには自信があったんだ。 |
広実 | ……入部試験の時は毎回、それすらできずに固まってたけど。 |
小鈴 | でも今の広実さんなら、きっとやれるはず! ということで、一緒に踊ってもらうのがこちら! |
広実 | え、師匠と一緒ってわけじゃないの、か……? |
泉 | やあ。 助っ人の桂城 泉だ。 |
広実 | 嘘だろ……。 |
小鈴 | 泉ちゃんと一緒に、かっこよくステージで踊ろう! |
広実 | ステップ2でラスボスくると思わないだろ!! |
小鈴 | ラスボス? |
広実 | ラブライブ!見てたんだぞこっちは! 決勝の圧巻のパフォーマンスも! |
広実 | セラス 柳田 リリエンフェルトと組んでのあの輝きも、 蓮ノ空に勝るとも劣らない芸術の極致! |
広実 | ラスボス以外になんて言えばいいんだ! |
泉 | 光栄な評価、ありがとう。 |
小鈴 | なるほど……でも泉ちゃんは、広実さんの言う通りひとりでも凄いし、 誰かと組んでも完璧にかっこいいパフォーマンスをしてくれる人だよ。 |
小鈴 | だから、広実さんのことも支えながらかっこよく踊ってくれる…… むしろ、初心者でも安心して踊れる最高の相手じゃないかなって。 |
泉 | その評価も光栄だ。 |
泉 | 姫芽ちゃんたちから聞いてるよ。 喋らなければなんとかなると。 広実さん、だったかな? |
広実 | 大道、広実……だ、えと……チェストオオオオオ! |
小鈴 | それは徒町だ!? |
泉 | へえ……自信があるというだけあるね。 |
広実 | 喋りさえしなければ……大丈夫、師匠もそう言ってくれた……! |
小鈴 | すごいすごい! ステップ2も完璧だよ、広実さん! あの泉ちゃんにダンスで食らいつくなんて……! |
さやか | さて……今日は時間ができたので、できることがあればお手伝いしますよ。 |
小鈴 | さやか先輩! ありがとうございます! |
広実 | 村野さやか……! |
小鈴 | そう、あのさやか先輩です! |
さやか | あの……? ご紹介ありがとうございます。 村野さやかです。 |
広実 | あ、ああ……大道、広実……だ。 |
小鈴 | おお……! ちゃんと言えた……! |
広実 | そう……だな、そうだ。 変なこと言わずに済んだ! 師匠のおかげで、ステップアップできてる気がする! |
さやか | 分からない盛り上がりが起きている……! |
さやか | えっと……緊張を改善するというのは難しいことだと思いますが、 それがうまくいっているということでいいですか……? |
小鈴 | はい! これならきっと、試験当日……夏休みが始まるまでに間に合います! あがり症克服! |
広実 | そう……だな! 試験に……間に合うといいな。 |
小鈴 | えへへ……。 でも、まだまだこれからです! 長所を活かせる場面ばかりでもありませんから! |
さやか | では今日は、長所とは関係ないことをやるんですか? |
小鈴 | はい! せっかくさやか先輩が来てくれたので、やることを決めました! |
さやか | わたしのスキルが活きる何か、ということですね。 分かりました、力になってみせましょう。 |
広実 | すげえ自信だ……アタシもこんな風になれたら……。 |
小鈴 | はい、ステップ3は――ENTERTAINMENTです!! |
さやか | えええ!? ENTERTAINMENTって……あの……? |
小鈴 | はい! さやか先輩は、ENTERTAINMENTの要なので!! |
広実 | なんだ!? アタシの知らないやつか!? |
小鈴 | 去年の配信でやったショートコントだよ! |
さやか | 去年の撫子祭での……一発芸の延長という形で、やったんですよ……。 |
小鈴 | 今回は、決まった台詞を言えるようになろう! そうやってひとつひとつ、みんなの前でやれることを増やすんだ! |
広実 | ステップアップ考えてくれるのは嬉しいんだが……去年のってあの…… めちゃくちゃ滑ってたやつでは……? |
さやか | 待ってください小鈴さん! わたしは、その枠なんですか!? |
さやか | わたしがいたからできることで小鈴さんが真っ先に思いつくのが、 ショートコント……? |
小鈴 | な、なにかダメでしたか……!? |
小鈴 | さやか先輩となら、 広実さんの舞台度胸を鍛えることができるかなと期待してたんですが……。 |
さやか | ……ふう。 そう言われては仕方ありませんね……! |
さやか | いいでしょう!! やってやりましょう!! またあの日のように、みなさんを圧倒してやりましょう!! |
小鈴 | さっすがさやか先輩!! |
小鈴 | それに、これなら広実さんは、 いいタイミングでちぇすとー!と言ってくれればいいので! |
広実 | マジでやるのか……!? |
さやか | ショートコント。 コンビニ。 |
さやか | うぃいん。 |
小鈴 | いらっしゃいませ! |
さやか | これください。 |
小鈴 | ありがとうございます。 お支払いは? |
さやか | クレジットカードで。 |
小鈴 | あ……あざーっす。 |
さやか | カードあげるわけじゃないですよ!? |
小鈴&さやか | ……。 |
広実 | ちぇっ……チェストオオオオオ!! |
さやか | 続きまして――。 |
小鈴 | やりきった、やりきりました! |
さやか | ふう。 やはりこうしたライブ以外のステージも、時には必要ですね。 わたしたちはライブ以外にもやれることがある。 それを示さないと。 |
小鈴 | はい、DOLLCHESTRA魂!! |
広実 | ……。 |
広実 | アタシはこれから、何を学んだんだ……? |
広実 | 師匠! 今日は何をするんだ! |
小鈴 | おお、広実さんすっごくやる気だね! |
広実 | そうだな……最近、師匠の言う通り本当に一歩一歩進めてる気がするんだ。 ま、まあちょっとよく分かんないとこもあるけど! |
広実 | でも、毎日できることが増えてる……こんな感覚初めてだから……かな。 |
小鈴 | えへへ。 徒町も、そう言ってもらえると嬉しい。 |
小鈴 | それじゃあ今日も頑張ろう! やれること、振ってもらえたんだ! |
広実 | よし、なんだろうと真正面から受け止めるぜ! |
小鈴 | うん! やるのは……観光ガイドだよ! みんなの前で説明をすることで、緊張と向き合おう! |
広実 | ついに……人前で話すのか……! |
広実 | 分かった。 |
小鈴 | えっと、やっぱりまだもう少し……別のステップ踏んでからにする? 早かったかな……? |
広実 | いや……。 |
広実 | ここまでひとつひとつ師匠が導いてくれたんだ、信じるぜ! 必ず、成し遂げてやる!観光ガイド! |
小鈴 | 分かった! 徒町はもう、あがり症克服も間近だと思うから! 今回はカンペを用意して、決まった言葉を長く話すことに慣れたいなって! |
広実 | へえ……遠いとこから来た学生に、金沢を案内……お。 この辺だと……。 |
小鈴 | 好きなところあった? |
広実 | ああ、アタシが子どもの頃好きだった場所が近くにあってな。 |
小鈴 | じゃあそこは、広実さんの長所と同じだね! みんなを連れていこう! 自分の得意なところを、頑張って案内しようね! |
広実 | ああ! ちゃんとカンペの台詞考えておくぜ! |