第5話『眠れる海のお姫様!』
PART 5
セラス | という感じで。 |
セラス | 作詞でいちばん大事なのは『なにを伝えたいか』です。 |
セラス | ひとつの曲の中で伝えたい気持ちが10個も20個もあると、 まとまりのない歌になってしまいます。 |
セラス | 本当に伝えたいことをひとつ、 それをもとに、イメージを広げていきましょ~。 |
セラス | 合宿は明日まで。 みなさんの歌詞が完成するのを、楽しみにしています。 |
セラス | ふぅ……。 |
セラス | 人に教えるの緊張する……。 けど……楽しいかも。 |
セラス | 花ちゃん、お空から見てて……。 わたしも、たくさんのお花を咲かせられるように、がんばるからね……。 |
瑠璃乃 | なんか、じゃっかん縁起でもねーこと言ってる? |
セラス | はっ。 すみません、自分の世界に入りすぎてました。 |
瑠璃乃 | ぜんぜんいーけど。 |
瑠璃乃 | 合宿も、明日までだねえ。 セラスちゃんは、どう? |
セラス | たのしいです! |
セラス | あまりにも楽しくて…… 夏休みの宿題に、一文字も手を付けてないぐらいで……。 |
瑠璃乃 | セラスちゃんもそっち側だったかぁ……! |
セラス | 作詞の方も、もうほとんどの人が提出してくれてて。 どうすればもっとよくなりますか? って相談してもらって。 |
セラス | 一緒に頭をひねるの、楽しいです! |
瑠璃乃 | それはルリもだよ。 |
瑠璃乃 | 作詞は楽しいよね。 自分の気持ちを言葉にするのは、難しいかもだけど。 |
瑠璃乃 | でも、そうやって頭をひねって作った歌は、 『自分の歌だー!』って思えるから。 |
瑠璃乃 | 卒業したルリの先輩は、作詞がとにかく得意でね。 上の先輩にも『言葉はその子』って言われてて。 |
セラス | 慈先輩ですよね? なんかすごいパワフルでかわいかった、あの。 |
瑠璃乃 | そそそ。 |
瑠璃乃 | ルリもその『めぐみせんぱい』から教わったことを、このサマー合宿で ひとりでも多くのスクールアイドルの子に教えることができたら嬉しいな、 って。 |
セラス | くっ……わたしも瑠璃乃先輩の作詞教室、受講したかった……。 さやか先輩も小鈴先輩も姫芽先輩も吟子先輩も花ちゃんのも……。 |
瑠璃乃 | それは蓮ノ空に帰ってからいくらでもできるでしょ! |
瑠璃乃 | Edel Noteも、大丈夫そ? |
セラス | あー……。 それは、その、はい。たぶん。 |
瑠璃乃 | たぶん? なにか心配事? |
瑠璃乃 | ヒーロールリちゃんの出番かい? |
セラス | あ、いえいえ。 泉が手ごわいだけで……。 |
セラス | ……あと、瑠璃乃先輩のお手をわずらわせるのは申し訳ないっていうか……。 やっぱり、わたしがやりたいって思うので。 |
セラス | わたしと泉、ふたりでEdel Noteですから。 |
瑠璃乃 | えらいぞ、セラスちゃん。 そうだよね、自分でやりたいよね。 相棒の……ためだもんね。 |
セラス | はい。 |
泉 | ……。 |
セラス | 泉、どう? |
泉 | ……ああ、セラスか。 |
泉 | なかなか難しいものだね。 自分の胸の中からわきあがってくる言葉を掴まえる、というのは。 |
泉 | なにをどう言えば、応援してくれる人が盛り上がってくれるか。 それはわかっているはずなのに……。 |
泉 | 自分の気持ちひとつが、こんなにもわからないなんて。 |
セラス | ……。 うん。 |
セラス | 大丈夫。 提出日までは、あと一日あるから。 泉もきょうは早く寝て、明日、がんばろうよ。 ね? |
泉 | ……そうだね。 |
泉 | 私はまだもう少し作業を続けるから、あなたは先に寝るといい。 |
セラス | なにか手伝えること、ある? |
泉 | ……いや。 あなたはこの合宿で、 あの手この手でわたしの素を引き出そうと、じゅうぶんがんばってくれた。 |
泉 | 私も『このままじゃだめなんだ』と、ちゃんと思えたよ。 |
泉 | あとは私が、与えられた材料をもとに、どう自分を定義し、組み立てるか。 自分のどんな感情をテーマに詩を書くか。 それだけのことだ。 |
泉 | 今度は私ががんばる番だ。 任せてくれ。 |
セラス | ……うん。 |
セラス | わたしもね、あっと驚くような曲を作ってあげるから。 一緒に、がんばろうね。 |
泉 | ああ。 |
泉 | おやすみ、セラス。 |
セラス | うん。おやすみ、泉。 |
泉 | だけど……どうして、ここまで……。 |
泉 | …………やはり、私は……“そう”なのか……? |
花帆 | いよいよ、きょうが合宿最終日! |
花帆 | 歌詞がまだ完成してない子は、 あたしたち蓮ノ空のみんなが協力するから、なんでも聞いてね! |
花帆 | うまくできなくったっていいんだよ! そしたら次の歌詞は、もっとうまく作れるようになるはずだから! |
花帆 | それじゃあ、最後までがんばろうー! |
スクールアイドル部員 | はい! |
花帆 | どれどれ……。 なるほど、最後のフレーズが決まらないんだね。 吟子ちゃんは、どう思う? |
吟子 | はい。 そういうときは、なるべく力強く、 胸を打つような言葉を選ぶようにしてます。 私の場合は、ですが……。 |
花帆 | あ、閃いた?それで書けそう?わー、さっすが吟子ちゃん! |
吟子 | それは、なによりです。 |
さやか | いいんですよ。 難しく考える必要はありません。 あなたの心の中のものを表現する……それが、スクールアイドルなんですから。 |
小鈴 | はい! 最後まで諦めず、文字を埋めてみましょう! そうして作った歌詞が不格好でも、いいんです! |
小鈴 | それが証となり……いつかきっと、その先に行けるはずですから! |
さやか | ふふ。 小鈴さんも二年生らしいことを言えるようになってきましたね。 |
小鈴 | そうなんです、さやか先輩。 なんと徒町、もう二年生なんです! |
瑠璃乃 | お、もう完成する!? やったじゃん! 初めての作詞、おつかれさま! |
姫芽 | これでもうほとんどの人は、提出完了ですね~。 |
瑠璃乃 | いやあ、セラスちゃんの企画、大成功だね。 |
瑠璃乃 | わ、わわ、ルリたちのおかげだなんて、そんな……。 姫芽、ティッシュティッシュ! |
姫芽 | なにかを完成させた達成感って、泣くほどに嬉しいですよね~……。 ふふふ、ここにまたひとつの花が咲いちゃいましたね~。 |
泉は変わらず、机に向かっている。その表情は、苦しみも悲しみも焦りもなく、ただ、泉は寂しそうに諦めていた。 | |
セラス | ……泉。 |
泉 | どうやら、まだ歌詞を提出できていないのは、私ひとりみたいだね。 |
セラス | うん。 |
セラス | えと……。 |
セラス | ……大丈夫。 まだ時間はあるよ! |
セラス | どんな歌詞でもいいんだから! 泉なら、決まっちゃえばすぐだよ! |
セラス | どうする? 一緒に、肝試しの歌、作っちゃう? すっごく感情移入できちゃうかも。 |
セラス | ほら、歌もスクールアイドルも、自由なんだから。 わたしも、力になるから。 |
泉 | 違うんだ、セラス。 |
泉 | 思い知ったんだよ。 |
セラス | ……それって? |
泉 | あなたが、様々な角度から、私の素を引き出そうとしてくれた。 私も、自分の殻を破ろうと、がんばっていたつもりだ。 |
泉 | だが、なかったんだ。 |
セラス | ……なにが、なかったの? |
泉 | なにも。 殻を破った私の中には、なにもなかった。 |
泉 | 素の私なんて、どこにもいなかった。 |
泉は諦めたように、きれいな微笑みを向けてきた。 | |
泉 | 空っぽだったんだよ、私は。 |
泉 | あなたには、無駄な時間に付き合わせてしまった。 |
セラスがショックで、息をのむ。 | |
セラス | そんな、こと……。 泉は、空っぽなんかじゃ……。 |
セラス | お化けが怖いのだって、泉の、ちゃんとした個性でしょ!?) |
泉 | そうじゃないんだ。 |
泉 | なにもないというのはね、セラス。 私には、叫びたい想いがない、ということなんだよ。 |
泉 | 苦手なものだって、そんなのもう、私の中で完結している。 |
泉 | あなたの課題に『ギブアップ』と叫び、 その一瞬は悔しい思いを味わったとしても…… |
泉 | 改めて誰かに聞いてもらう必要なんて、ないんだ。 |
泉 | 余裕で取り繕っていたわけじゃない。 なにもないから、虚飾を掲げていただけ。 |
泉 | ラブライブ!優勝を狙うような曲が書けても……。 大勢の感情を動かすような曲が、たとえ理屈と理論の上では書けても……。 |
泉 | 私の心から出たものが、誰かを楽しませることは、できない。 |
泉 | どうりで、私には情熱がないわけだ。 私は穴の空いたバケツだったんだ。 |
泉 | 誰かから情熱をもらっても、もらった端からこぼれ落ちてゆく。 |
泉 | 不毛だったんだ。すべては。 |
セラス | 泉! |
泉 | ありがとう、セラス。 改めて、気づかせてくれて。 |
泉 | 私も、これでようやく……また、諦めることができる。 |
セラス | 泉……。 |