第5話『眠れる海のお姫様!』

PART 6

セラス
……。
吟子
あ、セラスさん。
セラス
……吟子先輩。
吟子
そろそろ、合宿所を引き払う準備しなくっちゃだよ。
セラスさんも、荷物をまとめて……って。
吟子
……なにかあった?
セラス
え?
吟子
だって、顔色、悪いし。
セラス
あ、いや、これは……。
吟子
話、聞くよ。
吟子
先輩らしいこと、今までぜんぜんできてなかったかもだけど……
私も、もう二年生だから。
吟子
セラスさんがよければ、話してみてよ。
セラス
……。
いいの?
セラス
私、今まで吟子先輩に、いろいろ失礼なことばっかり、してきて……。
吟子
そんなの別にいいよ。
吟子
去年の私も、そうだったし。
吟子
私のときは、同期のみんなが助けてくれたけど……
セラスさんは、たったひとりの105期生なんだから。
吟子
いっぱいいっぱいでしょ、いろいろと。
吟子
だから、気にしないで。
セラス
吟子先輩……。
セラス
……スクールアイドルは、自分の中にある物語を、歌う。
セラス
わたしは、そういうものだと、思っていたんです。
吟子
……ん。
セラス
蓮ノ空の人は、みんなそうですよね。
セラス
ううん、蓮ノ空の人だけじゃなくて……この合宿に参加してくれた、
スクールアイドルのみなさん。 それに、あの広実さんも。
セラス
願いや夢。
自分の信念や、想いを歌う。
セラス
だけど……。
セラス
だったら、やりたいことも、叶えたい夢も、なにもない人は……。
そんな人には、スクールアイドルをする意味は、ないんでしょうか。
セラス
泉のためになればいいと思ってやったことだったのに……。
セラス
わたしが、スクールアイドルを好きにさせてみせるって、約束したのに……。
吟子
……泉さんの、歌詞は?
セラス
完成しなかったんです。
セラス
だって、泉には言いたい想いが、なにもなかったから。
歌いたい歌が、なかったから。
セラス
わたしが、きっと、間違えたんだ……。
吟子
……。
吟子
……もし、泉さんに、言いたい想いがなにもないんだったとしたら、
あの人はどうして、今まで一緒にスクールアイドルをしてくれたの?
セラス
それは。
セラス
わたしが、スクールアイドルを好きにさせてみせるって、
そう言ったから。
セラス
わたしのことを、信じてくれたのに。
吟子
泉さんは、スクールアイドルを好きになりたかったの?
セラス
別に、スクールアイドルじゃなくても……。
熱中するなにかを、見つけたくて……。 だから、わたしの手を取って。
吟子
だったら。
吟子
『スクールアイドルを好きになりたかった』
『熱中するなにかを見つけたかった』
それが、泉さんの想いなんじゃ、ないの?
セラス
それは……。
セラス
でも泉には、言いたいことなんて、なにも……!
セラス
なにもないって……。
それなら私は、なんでもやってみたい。
たとえこの先が、なにもない闇でも。
立ち止まることが、私はいちばん“嫌”だから。
セラス
……本当に?
吟子
私が初めてひとりで歌詞を書いたとき。
吟子
こんなに、個人的な内容を歌うなんて、いいのかな、って思ったんだよ。
セラス
……。
吟子
私は変わりたい。 一歩を踏み出したい。 その程度のことを、
先輩方に手伝ってもらって、大勢の人の前で披露させてもらって……。
吟子
でもね、そこで私は、気づけたの。
吟子
ステージで歌った歌は、誰よりも私の心に深く、届いた。
吟子
気づいたんだ。 今までずっと伝統を守りたいとだけ思ってた私の中に、
あんなにもたくさんの強い願いがあったことに。
セラス
吟子先輩……。
吟子
形にするのも、認めるのも、怖いかもしれないけど……!
でもやっぱり、いつかは向き合わなきゃいけないんだよ。
吟子
いいも悪いもない。
スクールアイドルは、その人のぜんぶなんだから。
吟子
想いがない人なんて、いない。
泉さんも、今を生きているんだから。
セラス
……。
吟子
……って、思ったんだけど。
どう、かな。
セラス
吟子先輩って、こんなに熱い人だったんだ。
吟子
私への感想は、いいから!
セラス
いくら花ちゃんの後輩でも、こんなの……敬わらないなんて、ムリだよ。
吟子
なんなん!?
セラス
ありがとうございます、吟子先輩。
セラス
蓮ノ空女学院105期生、セラス 柳田 リリエンフェルト。
吟子先輩の後輩になれて、よかったです。
セラス
わたし、泉に言いたいことが、見つかりました。
吟子
ん。
セラス
泉がどんなに自分を否定したって、そんなの、関係ない。
だって。
セラス
わたしは知ってるから。
泉の、本当の願いを。
セラス
泉!
……セラス。
ああ、そうか。
もう帰る時間かな。
荷物をまとめないとね。
セラス
わたし、わかったんだ。
セラス
泉こそ、スクールアイドルをやるべきなんだ、って。
スクールアイドルじゃなきゃ、だめなんだよ。
なにを言い出すかと思えば。
さっきの私の話を、聞いただろう。
私はステージの上で歌いたい歌も、なにもないんだ。 到底、向いていない。
セラス
そうじゃないよ、泉。
セラス
人と戦って勝つのだけがスクールアイドルじゃない。
自分の心を歌うのだって、スクールアイドルだよ。
ああ、だから。
セラス
だから。
セラス
もし泉が自分のことを空っぽだと思ってるのなら。
セラス
そう叫べばいいんだよ。
……なんだって?
セラス
自分は空っぽだ。 なにかを手に入れたい。
だが、自分には情熱がない。 光に届かない、って。
セラス
そう歌ってもいいんだよ。
スクールアイドルなら。
……だが、それは。
そんなことをして、何になるんだ。
誰もそんな曲が聞きたいとは、思えない。
私だって、そんなこと、望んでは……。
セラス
わたしが聞きたいから!
セラス
泉の、歌を!
セラス
わたしのために歌ってよ、泉。
スクールアイドル、桂城 泉の歌を、聞かせて。
空っぽの、私自身を……歌う……。
セラス
一緒に歌おうよ、泉。
わたしの曲で、泉の歌を、一緒に。
セラス
“スクールアイドル桂城 泉”を、始めよう。
……ここで。
ここでうなずくことは、また、同じことの繰り返しだ。
私はあなたの情熱にあてられて、憧れて、そしてまた歩き出す。
今までと、変わらない。
私は、ずっと……。
セラス
変わるよ。
セラス
自分で気づいてないだけだよ。
泉は4月からずっと、変わり続けてる。
セラス
だって。
セラス
前よりもずっと、わたしのことが好き。
でしょ?
……ああ。
その通りだ、セラス。
セラス
わ。
ありがとう。
セラス
……うん。
惨めで、つまらない。
そんな私の歌が、ようやく書けそうだ。
花帆
それじゃあ、みんな!
スクールアイドル部員&花帆&さやか&瑠璃乃&吟子&小鈴&姫芽&泉&セラス
おつかれさまでしたー!
花帆
サマーフェスも、楽しみにしてるからねー!
さやか
ラブライブ!に出場される方々は、どうぞ、がんばってくださいね。
瑠璃乃
帰るまでが合宿だよ! 気を付けて帰ってね!
さやか
あ、それはわたしの……。
花帆
あはは。
姫芽
いや~、今年も楽しかったね~、合宿。
小鈴
うん!
誰ひとり風邪を引くこともなく、なによりだったね!
姫芽
他校の友達もいっぱいできちゃったねえ~。
小鈴
えへへ、嬉しいね。
吟子
えと……。
その、結局、ふたりの歌詞は。
サマーフェスまでには、完成させるよ。
めどは立ったからね。
吟子
あ、そうなんだ。
吟子
よかったね、セラスさん。
セラス
はい。
セラス
すべて吟子先輩さまのお力添えのおかげでございます。
セラス
心より深く感謝もうしあげます。
このたびのご厚情は、しょうがい忘れることはございません。
吟子
硬い硬い硬い。
セラス
えっ……ですが、吟子先輩さま……。
吟子
別に尊敬されたくて話聞いたわけじゃないから!
ゆるくていいよ、もっとゆるくて。
セラス
さんきゅー吟子。 うぇーい。
吟子
どっちかしかないん!?
ふふっ。
花帆
わぁ!
さやか
花火ですね!
瑠璃乃
日本の夏だー!
セラス
楽しかったね、泉。
ああ。
楽しい、夏だった。