第6話『未来への花』
PART 2
吟子、屋上にひとりたたずみ、真剣に思案している顔。 | |
吟子 | これを形にするのが大変なのは分かる……。 分かるけど……。 |
そのとき、屋上のドアが開く音がして、吟子がそちらを見ると、ちょっと心配そうな顔の小鈴が屋上に入ってくる。 | |
吟子 | 小鈴……。 |
ちょっと驚く吟子、苦笑して、 | |
吟子 | ひとりで考えさせてって言ったのに。 |
小鈴も苦笑。 | |
小鈴 | ごめん! 気になって、追いかけてきちゃった。 |
吟子 | でも、ありがとう。 ちょっとひとりだと、煮詰まっちゃいそうだったから。 |
吟子、真面目な顔になって、 | |
吟子 | さっきの話、小鈴はどう思う? |
小鈴、意気込んだ顔になって、 | |
小鈴 | 徒町は、すごくいいアイディアだと思ったよ! |
小鈴、ちょっと難しい顔になり、 | |
小鈴 | 確かに、とんでもない規模になっちゃうんだろうけど……。 でも、ほんとに無理なのかなあ。 |
吟子 | ……私は、ぜったい無理とは言えないって思ってて。 |
吟子 | 街の人たちは、応援したいって言ってくれてるわけだから……。 |
吟子 | 私たちだけじゃなくて、 そういう人たちとも一緒に作っていくって考えたら……。 |
小鈴、再び意気込んだ顔になっていく。 | |
小鈴 | みんな、頼めばきっと協力してくれるよ! |
吟子、真面目な顔でうなずき、 | |
吟子 | うん。 街の人たちとしっかり話し合って、 何ヶ月も時間かけて、じっくり準備していければ、きっとーー。 |
吟子、自分が言ったことに引っかかった顔に。 | |
吟子 | あ……。 |
吟子が難しい顔になり、小鈴が不思議そうな顔に。 | |
小鈴 | 吟子ちゃん? |
吟子 | ……それじゃダメだ。 |
小鈴 | えっ、なんでダメなの? |
吟子 | おばあちゃんが言ってたんだよ。 |
吟子 | ラブライブ!の優勝から今までのことがあって、 みんな盛り上がってくれてるって……。 |
吟子 | でも、優勝からもう八か月経って……。 今年のラブライブ!も、もうすぐ始まる。 |
吟子 | いつまでもみんなが応援してくれるわけじゃ、ないと思う。 |
吟子、うつむいて、ぽつりとつぶやく。 | |
吟子 | それに……。 |
吟子 | うかうかしてたら、花帆先輩だってすぐに、卒業しちゃう。 |
小鈴 | あ、それは……。 うん、そうだね……。 |
吟子が重い表情になり、小鈴も一緒に悩む顔に。 | |
吟子 | 一緒にやれるチャンスが、今だけなら……。 |
吟子を見る小鈴、息を呑んだ顔に。 | |
吟子 | ……やるなら、今しかないんだ。 |
吟子 | 規模はすごく大きいけど……。 無理かどうかは、結局、やってみないと分からない……。 |
そこで吟子、顔をあげて小鈴に微笑みかける。一拍遅れて、ドキッとする小鈴。 | |
吟子 | 今までだって……小鈴は、ずっとそうしてきたもんね。 |
小鈴 | ……えっ!? か、徒町!? |
吟子 | うん。 いっつもすごいなって思ってるよ。 |
吟子 | 私がいちいち迷ったり、立ち止まってる間にも、 小鈴はひとりで3つも4つも新しいことにチャレンジして……。 |
吟子 | 最近はすっかり『自分ごとき』って言わなくなって。 どんどん前に向かって成長していって。 |
小鈴 | それは……うん。 徒町がそうしようって、決めたことだから。 |
そんな小鈴に、微笑む吟子。 | |
吟子 | だからね、私だって、小鈴に負けてらんないなって。 |
小鈴 | 吟子ちゃんまで姫芽ちゃんみたいなことを!? |
吟子 | 本当にできるの? って思うようなことでも、やってみなくっちゃ。 |
吟子 | 小鈴や、スクールアイドルクラブのみんなを見習って……あとは、 私の覚悟次第なんだから。 |
ぎゅっと拳を握る吟子。 | |
小鈴 | 徒町は……吟子ちゃんなら、ぜったいできるって思うよ! |
小鈴 | さっき、迷ったり立ち止まったりって言ってたけど……。 |
小鈴 | 徒町の目から見たら、ひとつのことをちゃんとしっかり考える吟子ちゃんは、 いつだって確実に前に進んでるって思うもん! |
小鈴 | 悩んでるその時間だって、無駄なんかじゃないよ、ぜったい! |
小鈴 | 入学からずっと吟子ちゃんを見てる徒町が保証するよ! 吟子ちゃんはすごい人なんだから! |
小鈴、意気込んだ顔で身を乗り出し、 | |
そんな小鈴に、優しい笑みを向ける吟子。 | |
吟子 | ……そういうところ、いつも助かってるよ。 小鈴……あんやとね。 |
小鈴 | えへへ……。 |
ふたり笑い合ってから、小鈴が吟子を促し、吟子は力強くうなずく。 | |
小鈴 | それじゃあ、吟子ちゃん! |
吟子 | うん……。 だったらーー! |
吟子、部室に向かって走り出し、小鈴が真剣な顔で後を追う。 | |
部室に戻ってきている吟子、決意の表情で、既にみんなへ「今しかない」と伝えたところ。吟子の横には真剣な顔の小鈴がいる。 | |
吟子の勢いに、みんな、少し驚いた顔。 | |
花帆 | 今……。 |
吟子 | そう! やっぱり、今応援してくれる人の気持ちは、今受け取らなくっちゃ。 |
吟子 | 街の人も、時間も、いつまでも待ってくれるわけじゃないんだから。 |
そこで花帆やさやか、瑠璃乃の姿を見つめる吟子。三人は吟子の想いには気づかず。 | |
吟子 | 確かに、ものすごく規模は大きいけど! でも、私はそれだけを理由に、このせっかくのチャンスを無駄にしたくない! |
姫芽、驚きながらもどこかワクワクした顔で、 | |
姫芽 | おお~、吟子ちゃんが燃えてる~! |
吟子、真剣な顔で皆に問いかける。 | |
吟子 | みんなはどう、ですか? やっぱり無理だって思いますか? |
さやか、思案顔で。 | |
さやか | ……いえ、絶対に無理だとも言い切れないはずです。 まずは、街の方々と話してみないと……。 |
泉 | とはいえ、街の人たちも、 こんな途方もない相談をされるとは思っていないんじゃないかな。 |
花帆、ちょっと考える顔で、 | |
花帆 | そりゃ、最初はびっくりしちゃうかもしれないけど……。 |
花帆、笑みを浮かべ、 | |
花帆 | でも、あたしは大丈夫だと思う! |
瑠璃乃、ほほう! と花帆を見て、 | |
瑠璃乃 | ちなみに、そう言い切れる理由は? |
ババーンと吟子ちゃんを指し示す花帆。 | |
花帆 | だって、あたしたちには吟子ちゃんがいるんだよ! |
瑠璃乃、嬉しそうに。 | |
うぐっ、となる吟子。 | |
瑠璃乃 | 確かに~! |
花帆 | 今までずーっと吟子ちゃんは、金沢の伝統を伝えたい、 金沢のこと大好き!って言い続けてきたんだから! |
花帆 | 地元の人だったら、そんな吟子ちゃんの熱い気持ちに触れたら、 なんでもしてあげたくなっちゃうこと間違いないよ! |
小鈴 | 間違いないです! 徒町もそう思います! |
吟子 | そ……。 |
吟子、ここで怖気づきそうな気持ちをぐっとこらえて、なんとかかんとか、自棄になったように胸を張る。 | |
吟子 | そうだよね! だって私も、私なりにがんばってきたんだから! みんな私の話なら聞いてくれるはずだよ! ぜったい! |
いつもの吟子らしからぬ態度に、姫芽とセラスが驚く。 | |
姫芽 | お、おお~? |
セラス | 吟子先輩が、無理してる……! |
顔を赤らめてたじろぐ吟子。しかしそれでも己を奮い立たせる吟子を見て、目を細めて和む姫芽とセラス。 | |
吟子 | ぐっ……。 こ、これぐらい言い張っておかないと、 自分の中のなにかに負けちゃいそうで……! |
姫芽 | 愛おしいね~……。 |
セラス | ね~。 |
吟子 | そこうるさい! |
泉 | ふふ。 確かに、人が動くときというのは、 強い気持ちに触れたときなのかもしれないね。 |
泉 | ただ、言った通り、相手は大勢だ。 |
泉 | 具体的にどうするのかも考えていかないと、 簡単には動いてくれないとも思うのだけれど。 |
泉 | 吟子さんには、その辺りのアイディアはあるのかな? |
吟子、真剣な顔で泉を見返し、 | |
吟子 | それは、これからみんなで考える! |
泉、思わぬ回答に、きょとんとした顔に。 | |
吟子 | 今までだって、どんな大変なときも、 みんなで考えてどうにかしてきたんだから。 |
吟子、腕を組んで、まるで照れ隠しのようにむっとした顔で、泉に協力を求める、 | |
吟子 | 泉さんにもアイディアを出してもらうからね! |
泉、面白くなってきた、という感じで笑みを浮かべる。 | |
泉 | ふふ……なるほど、そうきたか。 |
瑠璃乃がさやかを見て苦笑。 | |
瑠璃乃 | 何かもう、やってみる方向で決まっちゃった感じだねえ。 |
さやかも苦笑を返し、 | |
さやか | そうですね。 でも、いいんじゃないでしょうか。 |
さやか、笑みを力強いものに変えて。 | |
さやか | 新しい計画を立てるのも、難しい計画を立てるのも、ワクワクします。 |
さやか | わたしももう、その気になっていますから。 このイベントは確実に、Bloom Garden Partyへの追い風にもなりますし。 |
瑠璃乃の笑みも明るいものに。 | |
瑠璃乃 | そこは間違いないね。 |
花帆 | ねえ吟子ちゃん。 このイベント、なんて名前にする? |
吟子、予期しない問いを急に振られ、少し驚いた顔に。 | |
吟子 | えっ、名前? |
花帆 | そう! 吟子ちゃんの夢を形にしようってイベントだもん。 |
さやか | プレゼンするにも、名前があったほうがわかりやすいですしね。 |
ニコニコと笑う花帆とさやか、瑠璃乃。 | |
瑠璃乃 | ここは吟子ちゃんに、名付け親になってもらわないと! |
吟子、真剣な顔で考え込む。 | |
同じように真剣な顔で考え込むセラス。 | |
吟子 | 名前か……何がいいかな……。 |
セラス | モモセ☆ギンコのプリティ・ドリーミン・カーニバル……。 |
吟子の代わりに、やんわりとセラスにツッコミを入れる姫芽。後輩への対応が徐々に雑に上手になっていっている。 | |
セラスは心外とばかりに驚く。真剣に考えていたのに! | |
吟子は真剣に考え込んでいる。 | |
姫芽 | せらりんちょっとお口チャックしとこうね~。 |
セラス | えっ……!? |
吟子 | 金沢の街……。 コラボ……。 |
皆が吟子に注目し、じっと見守る。 | |
吟子 | 街の人たちと一緒に……花咲く……。 それに、これはきっと、何日かにわたるイベントになるから……。 |
吟子 | ーーBloom Days。 |
吟子 | ……とか? |
花帆が吟子に大きく身を乗り出し、 | |
花帆 | すっごくいい! |
花帆を見返した吟子、思った以上の反応にちょっと驚きつつ、手応えを感じて頬が紅潮する。 | |
小鈴 | みんなで花咲く日々! このイベントにぴったりだよ! |
姫芽もにっこり微笑んで。 | |
セラス | 善きかと! |
姫芽 | 吟子ちゃんらしくて、アタシも好きだな~。 |
花帆 | じゃあ、今からスタートだね! |
花帆 | Bloom Days実行委員長! 号令をお願いします! |
吟子 | なっ……い、委員長!? |
吟子 | ……わ、わかった。 |
吟子 | じゃあみんな! Bloom Days、絶対に成功させよう!! |
吟子が見ると、皆が意気込んだ笑みを浮かべて号令を待っている。 | |
吟子、力強い笑みを見せて。 | |
花帆&さやか&瑠璃乃&小鈴&姫芽&泉&セラス | おー!! |