第6話『未来への花』
PART 4
吟子 | それで、どうしたの? 姫芽。 見せたいものがある、って。 |
姫芽 | うぇへへ~。 |
小鈴 | あ、悪だくみしてるときの笑顔だ! |
泉 | さて、姫芽ちゃんはいったいどんな悪だくみを見せてくれるのかな。 |
姫芽 | こちらをご覧あれ~! |
小鈴 | こっ、これは……! |
泉 | なるほど、金沢の地図をファンタジー風に……。 |
姫芽 | そう! 『カナザワキングダム』のマップです~! |
姫芽 | やっぱり、ゲームとかでもマップ見るとアガるからね~。 アイディア出しの起爆剤になるかと思って~。 |
吟子 | これ、姫芽が一から作ったの!? |
姫芽 | うん。 昨日の夜に思いついて、作り出したら止まらなくなっちゃってね~。 夜なべして完成させました~! |
吟子 | すごいね……。 姫芽、こういうのもできるようになったんだ……。 |
姫芽 | 動画のサムネ作りとか、配信に使う画像制作で鍛えられたおかげかな~。 |
姫芽 | とはいえ、まだどのポイントがどういう場所なのかは入ってないので~。 |
小鈴 | じゃあ、ここが王宮! って決めたら、そこに王宮のマークが入るってこと? |
姫芽 | そうそう! だから、今日はこの地図を完成させようの会を開きたくて~。 |
小鈴 | わあ! 楽しそう! |
泉 | なるほど。 だったら、ちょっと考えてきたことがあるんだ。 |
泉 | 今のところ、元々ワークショップをやっている施設では、 スタンプラリーの参加者に伝統体験をしてもらう話になっていたね? |
吟子 | そうだね。 例えば鞠屋さんなら、加賀てまりを作ってもらうことになってるけど。 |
泉 | 私は、そういうところで作ったものをファンタジーのアイテムに 見立ててはどうかと思ったんだ。 |
泉 | 今、話が出た加賀てまりなら、 それが何かすごい御守りだということにする、とか。 |
姫芽 | いいね~。 それなら、 鞠屋さんは御守りを作れる神殿か何かになるのかもね~。 |
姫芽 | いずみん、さてはゲームにハマったな~? |
泉 | まぁね。 姫芽ちゃんがいつもオススメしてくれるからさ。 で、どうかな? |
吟子 | ちょっと、被ったかも……。 |
小鈴 | なになに? 吟子ちゃんも何か考えてたことがあったの? |
吟子 | いや、実は……私のキャラは神殿の巫女で、 伝承を伝えるのが仕事らしくて……。 |
吟子 | 金沢くらしの博物館を、 伝承の神殿っていうことにしたらどうかなと思ってたんだけど……。 |
小鈴 | 面白いと思う! |
吟子 | そ、そう……? |
泉 | 伝承を伝える博物館を伝承の神殿に見立てるのは、いいね。 |
姫芽 | そうだね~。 館内でキーワードを見つけて、それが伝承の呪文だ~! みたいなこともできるし~。 |
吟子 | よかった……でも、こっちを神殿にすると、 鞠屋さんは何か別の場所にしないといけないね。 |
泉 | そこはじゃあ、専門家にご教授いただくとしよう。 ファンタジーのゲームに出てくる場所だと、他にどんなところがあるかな? |
姫芽 | そうだね~、例えば「ほこら」とか、 「洞窟」とか、「塔」、「遺跡」……。 |
姫芽 | せらりんがいる最初の場所なんかは、 それこそ「王宮」にしちゃえばいいと思うんだよね~。 |
小鈴 | あっ、じゃあ、重要なアイテムが手に入るポイントは、 みんな神殿ってことにする? |
小鈴 | くらしの博物館は「伝承の神殿」のままでよくて、 例えば安江金箔工芸館は「黄金の神殿」とか! |
姫芽 | いいんじゃない~? |
姫芽 | ポイントは他にもあるけど、3つの神殿はスペシャルなポイント ってことにして、そこで「伝承の言葉」とか「伝統の御守り」とか、 「伝統のしるし」をそろえよ~みたいな~。 |
吟子 | 伝統を守る職人さんも、神殿の重要人物で……! |
姫芽 | いいね~! 伝説の叡智を受け継ぐ大神官さまみたいな~! |
泉 | ふふ……。 |
姫芽 | いずみん? どうかした~? |
泉 | いや、あまりにもすんなりと決まっていくものだから。 |
吟子 | うっ……。 私たち、またなにか見落としてる……? |
吟子 | あ、いや、気づいたことがあるんだったら、 なんでも言ってほしいんだけど……。 |
泉 | いや、その逆さ。 |
泉 | 今回は私が気づかされたよ。 伝統とファンタジーの世界観というのは、相性がいいんだな、ってね。 |
吟子 | あ、それは確かに……。 |
姫芽 | ファンタジーの壮大なストーリーとか、言い伝えのアイテムとか、 あれだって言い方を変えれば伝統そのものだもんね~。 |
吟子 | この企画、金沢の街にぴったりなのかも。 |
吟子 | うん。 なんか、自信出てきた。 地図作ってくれてありがと、姫芽! |
姫芽 | ふふふ、どういたしまして~。 |
吟子 | よし、この調子で他のポイントも全部決めよっか! |
小鈴 | やろやろ! |
姫芽 | よっしゃ~! 今日がカナザワキングダム爆誕の日だ~! |
花帆 | いや~、魔王の宮殿も何とかなったね! |
吟子 | 施設のみなさんが、機材を全部そろえてくれたから……。 |
セラス | これで、花ちゃんが書いたお話、ぜんぶ再現できるね。 |
花帆 | ね~! びっくりだよ! |
吟子 | もしもし? |
吟子 | はい、こっちは終わりました。 今、戻ってるところです。 |
吟子 | あ……ほんとですか!? |
吟子 | はい、よかったです! ありがとうございます! |
花帆 | さやかちゃん? |
吟子 | うん。 あ……画像が送られてきた。 見て見て。 |
花帆 | これって……! |
セラス | お~……ラッピングバス……! |
吟子 | Bloom Daysの特別仕様。 チェックポイント間を、臨時運行してくれるんだって。 |
吟子 | これで、ちっちゃい子も、長い距離を歩くのが大変な人も、 みんな気軽に参加してもらえる……。 |
吟子 | 土壇場に決まって、よかった……。 |
セラス | すごいね。 こんなに皆さんが快く協力してくれるなんて。 |
花帆 | ね! みんな、すっごく優しかったよねー! |
セラス | 実は、ちょっと意外だったんだ。 |
セラス | 花ちゃんのストーリー、やりたい放題だったから、 どこかで一度は怒られるんじゃないかなって。 |
花帆 | え!? そんなこと思ってたの!? |
吟子 | ふふふ。 魔王が復活して、カナザワを滅ぼそうとしてる…… なんて、確かにね。 |
花帆 | 一生懸命考えたんだよー!? |
吟子 | それは、まあ。 |
セラス | きっと伝わったんだよ。 みんなをワクワク、 ドキドキさせたいっていう花ちゃんの気持ちが。 |
花帆 | えへへ、そうかな~? |
セラス | 吟子先輩が“金沢の星”なら、花ちゃんは“長野の太陽”だから、ね。 |
セラス | ごめんね、吟子先輩。 わたしやっぱり花ちゃんのこと、忘れられないから……。 |
花帆 | えっ!? |
吟子 | なんなん……。 |
花帆 | でも、伝統を守ってる人たちって、せっちゃんも言ったけど、 臨機応変っていうか、すごいね。 |
花帆 | みんな、なんだかちょっと手慣れたっていうか。 |
セラス | こんなイベント、ぜったい初めてのはずなのにね~。 |
吟子 | そうだね……。 でも、おかげで、すごく助かった。 それに、途中から協力してくれた金沢の人たちもいっぱいいて……。 |
花帆 | そこもすごく助かったよね! チラシに、お手伝いしてくれる方大募集! って入れておいてよかったよ! |
吟子 | おかげで、ここまでこぎ着けられたから……本当にありがたいよ。 |
花帆 | あ、ほら、のぼりが立ってる! Bloom Daysって書いてあるよ! |
セラス | さっき通ったお店は『おいでよ!石川大観光』が流れてたね。 |
花帆 | うん……。 まるで、街がお化粧したみたいに華やいでて、嬉しいなあ。 |
セラス | 金沢の魅力、いっぱい伝えられるといいね、吟子先輩。 |
吟子 | ん……。 |
吟子 | おばあちゃんが、いろんな人に私のサイン色紙を配ってくれてさ。 その、お礼の手紙みたいなものを、こないだもらったんだけど。 |
セラス | おお……。 |
吟子 | みんなね、このBloom Daysをがんばって一緒に盛り上げよう、 って書いてくれてて……。 |
吟子 | なんか、すごく……嬉しかった。 私のやってきたことが、ちょっとずつ実を結んできたのかな、なんて……。 |
セラス | ……吟子先輩。 |
花帆 | あたしも、いろんなところにお手伝いをお願いしにいったけど、 どこでも歓迎してもらえたよ。 みんな、嬉しそうだった。 |
花帆 | ぜんぶ吟子ちゃんのおかげだね! |
吟子 | そ、それは言い過ぎ……! 私は、最初に言い出しただけだから……! |
花帆 | ……もう、明日から始まるんだね。 |
吟子 | 準備の間、いろいろあったはずなんだけど。 ……何だか、あっという間って感じがする。 |
セラス | ……もっと時間があれば、花ちゃんのアレもできたんだけど。 |
花帆 | あー……。 来てくれた人たちに、花を植えてもらうイベント? |
セラス | うん。 みんなで実際のお花畑を作っちゃおうって。 |
セラス | Bloom Daysの名前にちなんだ、いいアイディアだと思ったんだけど。 お花屋さんも、やる気満々になってくれたのに。 |
花帆 | しょうがないよ、間に合わなかったんだから。 そういうこともある! |
花帆 | その代わり、あたしたちのスタンプラリーも準備万端! 後は明日を待つばかり! |
花帆 | どう? せっちゃん。 ううん、セラス姫! セリフはちゃんと頭に入ってますか? |
セラス | おっと……。 花ちゃん、わたしを甘く見てるね。 わたしはあの演劇界の天才、桂城 泉のパートナーなんだよ!? |
吟子 | あんまり関係ないんじゃ……! |
セラス | 伝承の巫女、吟子さま! ビーストテイマー、花帆さま! どうかこの国の危機をお救いください! |
吟子 | いやちょっと、こんなところでなにをーー。 |
花帆 | セラス姫! あたしも、国中の動物たちもあなたの味方です! 必ずこの国を救ってみせます! |
吟子 | 花帆先輩まで!? |
セラス | 吟子さま、あなたはどうなのですか? わたしに……いや、この国に、力を貸してはもらえませんか? |
吟子 | な、なに言ってーー。 |
花帆 | やろうよ吟子ちゃん! みんなで魔王を倒したときみたいに! |
セラス | お願いです、吟子さま……どうか……! |
花帆 | 吟子ちゃん、今が決断のときだよ! |
吟子 | ~~~~っ!! |
吟子 | 分かりましたっ!! この吟子、命に代えても、この国を救ってみせますっ!! |
吟子 | なんなんこれ……。 |
花帆 | と、いうわけで! Bloom Days、いよいよ明日、開幕です! |
セラス | ハスノソラファンタジー・スタンプラリーもこのとおり、 準備万端でお待ちしています。 |
花帆 | それではBloom Days実行委員長、百生吟子さん! 皆さんに一言どうぞ~! |
吟子 | な……っ、ちょ、ちょっと……。 |
セラス | どうぞ! |
吟子 | みっ、皆さんもぜひ! 明日はよろしくお願いしますっ! |
吟子 | ああもうっ! このふたりは、ほんまに~~っ! |