第12話『ずっと花咲く僕らの桜』
PART 5
- 花帆
どうかな、吟子ちゃん。
ここのメロディ。 - 吟子
うん、いいと思う。 軽やかで華やかで……。
これで全体像は、できてきたかな。 - 花帆
やったぁ。 なんとか間に合いそうだね。
- 花帆
あ、梢センパイは、どうですか?
もしなにか意見があれば! - 梢
ふたりとも…………。
- 梢
……すごいわね。
曲作り、本当に上手になったのね……。 - 花帆
えっ、ほんとですか?
嬉しい! - 吟子
ふふふ。 今年一年、がんばってきましたもんね。
ケンカもちょっとはしましたけど。 - 花帆
仲良い証!
- 梢
そうよね……今年一年、あなたたちふたりでスリーズブーケの新曲を
作ってきたんだものね……。 はぁ……すごいわ、本当に。 - 吟子
そ、そんなにしみじみと……。
- 花帆
あ、でも梢センパイの残してくださった
スクールアイドルノートのおかげですよ! - 花帆
作曲について、すごく丁寧に書いてもらってて!
- 梢
だとしても……たくさん、努力したのね、ふたりとも。
- 梢
苦労させてしまって、ごめんなさい。
- 花帆
えっ?
- 梢
卒業してからも、思っていたの。 私にもまだできることが……
もっともっとなにかを教えられたんじゃないか、って。 - 梢
花帆との二年、吟子さんとの一年は、
終わってみれば、あまりにも短くて……。 - 吟子
……そうですね。
- 吟子
でも、だったら!
これからだって遅くはないですよ! ね、花帆先輩! - 花帆
うんっ。
- 花帆
こうして梢センパイが帰ってきてくれたんですから!
なんでも言ってください! - 梢
……そう、そうね。
- 梢
こんな話ばっかりしていたら、
慈にまた『辛気臭い女』ってからかわれてしまうものね。 - 吟子
あはは。 『また』なんですか。
- 梢
ええ。
卒業してからも、慈や綴理にあなたたちの心配をよく相談していたから……。 - 花帆
ええっ、なんでそこでセンパイ方なんですか!?
- 梢
え?
- 吟子
そうですよ、梢先輩!
心配してたなら、私たちに直接連絡してくださいよ! - 梢
そ、それは……!
- 梢
違うの、だってあなたたちはがんばっているでしょ……!?
それはちゃんと、信じていたのよ。 - 梢
だからこれは、私がただ勝手に心配していただけで……!
- 花帆
むむむ……。
- 吟子
いいんですよ、どんなことでも。
『最近どう?』とか『なにか悩んでいることはない?』とか、そのぐらいでも。 - 梢
ちょっとお母さんすぎないかしら……。
- 吟子
DOLLCHESTRAなんて、ずっとそうですし!
- 梢
それは、確かに……。
- 梢
……なんだか吟子さん、変わったわね。
- 吟子
まあ……。
私もいろいろと、思うところがありまして。 - 吟子
去年の今頃はきっと、まだよくわかってなかったんです。
- 吟子
私はずっと地元に住んでて、そこには、
物心ついた頃からずっと変わらない時の流れがあって。 - 吟子
だから、一年とか二年がこんなに早いだなんて、思ってなくて……。
せっかちな先輩にそう教えてもらうまで、ちょっと、のんびりしすぎてました。 - 花帆
ふふっ。
- 梢
……そうね。
高校での3年間は、本当に目まぐるしく過ぎていってしまったわ。 - 梢
あの花帆が、もう卒業してしまうんだもの。
- 花帆
卒業しますよ、無事に!
- 梢
それじゃあ私も、曲作りをお手伝いさせてもらおうかしら。
- 花帆
わーい。
- 梢
大学に入って、どこにも披露する機会はなかったけれど、
曲作りは続けていたのよ。 - 梢
気持ちを落ち着けたいときや、吐き出したいときなんかに。
- 花帆
梢センパイの新曲……!
- 吟子
それは、聞かせてもらったりできないんですか!?
- 梢
え、えっと……そうね、いつか機会があれば。
- 花帆&吟子
やったぁ!
- 梢
……なんだか、花帆がふたりに増えたみたいだわ。
- 花帆
あっ、でもこれからちょっと、人に会う予定が入ってて。
- 花帆
もしよかったら、ふたりにも来てもらえませんか?
ちょっと、荷物が多いので。 - 梢
それは構わないけれど。
- 吟子
どなたに会うんですか?
- 花帆
それはねーー。
- 花帆
ごめんごめん、待った?
- つぐみ
別に。 今来たとこ。
- 吟子
えっ!?
- 花帆
えへへ、わざわざありがとうね、つぐみちゃん。
- つぐみ
まあ、うちの学校はしばらくライブの予定がないから。
照明と音響の機材。 好きに使って。 - 吟子
なんで襟川さんが、ここに……。
- つぐみ
あんたのとこの部長にお願いされて、学校の機材を持ってきてあげたの。
てか私だって、Bloom Garden Partyの準備は手伝ってるわけだし。 - つぐみ
なんか文句ある?
- 吟子
別に……。
- つぐみ
まあ、持ってきた機材はこれで半分。
残りは新潟の高校から今かき集めてる最中。 - つぐみ
もしかしたら当日まで間に合わないかもだけど。
- 梢
あら、あなたは。
- つぐみ
う……。
乙宗 梢……。 - 梢
晴里高校のスクールアイドルさんね……。
お久しぶりだわ。 - つぐみ
……まあ、12月に配信をしましたからね。
さすがに、覚えてくれてますか。 - 梢
それもそうだけれど、あなたの先輩方には、迷惑をかけてしまったから……。
私がまだ一年生だった頃に。 - つぐみ
……あ、全国大会棄権の件、ですか。
- 梢
ええ……誰にとっても、しこりを残すような形になってしまって、
申し訳なかったわ。 - 梢
でもね、毎年の晴里高校のパフォーマンスが素敵だと思っていたのも、
本当のことよ。 - 梢
一歩間違えば、私たちが負けていてもおかしくはなかった。
- 梢
そんなあなた方がBloom Garden Partyに参加してくれているなんて、
光栄だわ。 - つぐみ
……ど、どういたしまして……。
- つぐみ
じゃ、じゃあ私はもう帰りますから!
機材、なんとか当日までには届けられるようにがんばってあげるけど、
壊さないで返してよね! ばいばい! - 花帆
あ、ばいばーい!
ありがとねー! - 梢
かつてライバルだった高校も手を取り合って、
同じ目標に向かってがんばる……。 - 梢
いいイベントだわ、Bloom Garden Party。
- 吟子
……ふっ、梢先輩の器の大きさの勝利ですね。
- 梢
うん……?
- 花帆
ふー……働いた後のお風呂は、きもちいいですねぇ……。
- 梢
いいのかしら……。
私まで一緒に入って。 - 吟子
いいじゃないですか、寮母さんもいいって言ってくれましたし。
- 花帆
なんだったら、今夜はあたしの部屋に泊まればよくないですか!?
- 梢
さすがに帰るわよ。
実家も近いんだから。 - 梢
大丈夫よ、明日も来るから。
すぐにまた会えるでしょう? - 花帆
ですね!
明日が来るのが楽しみだなあ。 - 花帆
梢センパイにはちゃんと、
あたしの淹れたお紅茶も飲んでもらわなきゃいけませんし。 - 花帆
この一年で、さらに上達しましたからね。
- 吟子
あ、でしたら私の淹れたホットコーヒーも……!
- 梢
どちらも、ありがたく頂戴するわ。
- 梢
……ありがとう、花帆。 吟子さん。
こうして、私が戻る場所を作ってくれて。 - 花帆
約束しましたからね、当たり前です!
……と言いたいところですけど、その。 - 吟子
花帆先輩は、がんばってましたよ。
みんなのため、そして戻ってくる梢先輩たちのために。 - 梢
あなたもね、吟子さん。
- 吟子
あ、あの……。
でしたら、梢先輩。 - 吟子
……私のことも『吟子』って呼んでくれたり、したり……。
ど、どうでしょう! - 花帆
わ。
- 梢
あら……。
- 梢
……そうね、吟子。
- 吟子
!
- 梢
さん。
- 吟子
!?
- 花帆
梢センパイが、意地悪を……!?
- 梢
べ、別にそういうつもりじゃないわ。
- 吟子
では、なぜ……。 私にはやはりまだ至らないところが……?
調子に乗りすぎてしまいましたか……? - 梢
そうじゃなくてね。
- 梢
呼び方がどうであれ、あなたは私の大切な後輩で、友人よ、吟子さん。
なにかの証がなくても、ムリに目に見える形を作ろうとしなくても。 - 梢
そう、不安を感じなくても、大丈夫。
卒業して、物理的な距離ができても、想いは変わらないから。 - 吟子
それは……はい。
- 梢
今度はちゃんと、私から些細なことでも連絡するわ。
きっと花帆だって。 - 花帆
あたしは毎日メッセージ送るよ!
- 吟子
それは、ちょっと多いかも……。
- 花帆
なんで!? 喜んでよー!
- 梢
ふふ……。
- 吟子
……そうですね、ごめんなさい。
- 吟子
なんか私、ちょっと焦ってたのかも、しれないです。
- 花帆
ほら、その分いっぱいいっぱいアルバムツリーに写真を飾ろうよ!
吟子ちゃんの映ってる写真には、全部メッセージ書いちゃうし! - 梢
……あまり、こういうことを言うのはよくないのかもしれないけれど。
- 梢
吟子さんは、アルバムツリーがあれば、寂しくない?
- 吟子
えっ……それは……。
- 花帆
そ、それはよくないことを聞いてますよ梢センパイ!
- 花帆
そりゃ寂しいというか、でもアルバムツリーが完成したら、その気持ちを、
受け取って嬉しい気持ちで塗りつぶすことがですね! - 吟子
……どうやったら、完成する?
- 花帆
へ?
- 吟子
どうやったら、完成して、私の気持ちを嬉しいで塗りつぶせる?
- 花帆
それ、は……。
- 梢
やっぱり、意地悪を言ったかしらね。
- 花帆
いえ。 言われてみたら……どうやったら完成するのかさえ、
あたしは考えていませんでした。 - 花帆
こんなんじゃ、喜んでもらえるはずもなくて。
- 吟子
……花帆先輩。
- 吟子
ごめん。
私もちょっと、変なこと言ったね。 - 花帆
ううん! あたし、ちゃんと考えておくから!
どうやったらアルバムツリーが完成するか、考えておくからね! - 花帆
みんなが寂しくないように……。
寂しくても、大丈夫なように、しなくっちゃね!