第2話『ダメダメ⇒世界一!?』
PART 5
梢 | どの紅茶にしようかしら。 |
梢 | 最近はまだ寒いから、みんなのためにも、 体が温まるものを用意しましょうか。 |
花帆 | 梢センパぁぁぁぁぁイ~~………………。 |
梢 | きゃっ。 ど、どうしたの!?日野下さん、泣いているの!? |
花帆 | あたし、あたし…………。 |
梢 | 日野下さん……? |
花帆 | あたし、ぜんぜんダメダメでした……………………。 |
梢 | え、ええと……。 |
梢 | とりあえず、お茶をいれてあげるから、 座っててね……。 |
花帆 | はぃ……。 |
さやか | ……立ち入り禁止? |
綴理 | どうやら、そのときが来たみたいだね。 |
さやか | あ、夕霧先輩。中でなにが? |
綴理 | ボクたちに手伝えることはないから。 陰ながら応援していてあげようね。 |
さやか | なにをですか? |
綴理 | しいて言うなら……。 先輩活動、かな。 |
さやか | ? |
梢 | つまり、こういうことかしら。 村野さんの配信を見て、自分のライブが気になってしまった、と。 |
花帆 | はい……。 |
花帆 | それなのにあたし、 妹たちにもドヤ顔でライブ配信をオススメしちゃったんですよ……。 |
花帆 | 友達みんな、ほとんど毎日ライブに来てくれて……。 あたし、全校生徒の前で一週間ずっとライブしてたんですよ……。 |
花帆 | こんなあたしが……。ううう……。 |
梢 | あなたのライブ、私には素敵に見えたわ。 頻度には、その、少しだけびっくりもしたけれど……。 |
花帆 | でも、なんかこう、違うんです……。 センパイ方や、さやかちゃんたちとは……。 |
梢 | 隣の家の芝は青い、と言うわ。それは誰でも同じ。 私にもね、あなたのことをうらやましいと思うことはあるのよ。 |
花帆 | えっ? |
梢 | 日野下さん。 |
梢 | 私や綴理、それに村野さんが、あなたのライブを『魅力的』と言った言葉には、 お世辞や社交辞令なんてものはなかった。 9 |
梢 | 心からそう思ったのよ。 |
花帆 | うっ、あたしたちのライブ……! |
梢 | もちろん、あなたの配信を見てくれた人たちもね。 |
花帆 | …………それは、どうして、なんでしょうか。 だって、あたし、こんなに……。 |
梢 | わからない? |
花帆 | ……。 |
梢 | それはね、あなたが本当に心からスクールアイドルを楽しんでいることが、 伝わってくるからなの。 |
花帆 | ……楽しんでいることが。 |
梢 | ええ。 そのまっすぐな気持ちは、誰だって持っているものじゃないわ。 |
梢 | あなたの笑顔が、弾む声が、内から湧き出てくる情熱が、 見ている人の心を打つから。 |
梢 | だから、みんながあなたに温かな声援をくれるの。 |
花帆 | それは、でも。 |
梢 | だから、あなたには、あなたの魅力が。 |
梢 | ……あるから、気にすることはないわ、って言いたいところだけれど、 それじゃあ納得できないみたいね。 |
花帆 | ……はい。 |
花帆 | 言いましたよね、梢センパイは。 大変なことも多いけど、でも楽しんでやっている、って。 |
梢 | ええ。でもそれは、私のやり方で。 |
花帆 | 自分の上達を感じられるのが、嬉しいことだ、って。 |
梢 | ……ええ、そう言ったわ。 |
梢 | 私は、努力をすることが好きなの。 いいえ、そうするべきだと思っているわ。 |
梢 | 私は日野下さんみたいな愛嬌があるわけじゃないから。 スクールアイドルとして見せられるのは、自分の歩んできた軌跡だけなの。 |
花帆 | 軌跡……。 |
梢 | 私の努力は、きっと他の誰かに伝わると信じている。 私が他の誰かに誇れるものがあるとしたら、それだけだから。 |
花帆 | ……がんばる姿、ってこと、ですか……? |
梢 | ええ。私はね、スクールアイドルコネクトって 半分はそのためにあるんじゃないかって思うの。 |
梢 | ライブやイベントでみんなを楽しませる以外に、 毎日努力をしている姿を配信するのはね、 それを受け取った人の心にきっと、芽生えるものがあるからだわ。 |
花帆 | スクールアイドルの、がんばる姿を見て、自分もがんばりたいって……。 |
花帆 | そっか、だからあたし、さやかちゃんの練習風景が…… すごく、きれいだって思って……。 |
梢 | ……日野下さん? |
花帆 | あたし、わかった気がします! |
花帆 | そうだったんですね! だからあたし、梢センパイのライブを見て、すっごく胸が熱くなって……! |
梢 | そう思ってくれたのなら、嬉しいわ。 |
花帆 | はい、梢センパイのライブ、ステキでした。 |
花帆 | だからあたしも、あんな風に、 人の心を花咲かせるようなライブがしたいんです。 |
花帆 | お願いします、梢センパイ! あたしにも、センパイのやり方を教えてください! |
花帆 | あたし、楽しいだけじゃなくて……。 すっごくすっごく!楽しいライブがしたいんです! |
花帆 | そのためには、今のままじゃだめなんです! |
梢 | そう。そうなのね。 わかったわ、日野下さん。 |
梢 | あなたがそこまで言うなら、もう、私に断る理由はないわね。 |
花帆 | ありがとうございます!センパイ! |
梢 | ただ、先に言っておくけれど、私のやり方は大変よ。 最初のうちは、楽しいなんて思う余裕はないかもしれないわ。 |
花帆 | そ、そこはちょっと手加減してもらえると嬉しいですけど……。 でも、だ、大丈夫です! |
花帆 | あたし、雨にも風にも負けないような、 そんな立派なお花になるつもりですから! |
梢 | ええ。……あら、いけない、もうこんな時間だわ。 |
花帆 | 一週間のライブ、最終日ですね! |
花帆 | うっ……。でもあたし、こんなにダメダメなのにライブを……。 |
梢 | ふふっ、仕方ないわ。誰だって急に上手になったりはしないのよ。 |
梢 | 少なくともあなたの笑顔は一級品なんだから、 それをみんなに見てもらいましょう。 |
花帆 | 笑顔は、ですか……。 |
梢 | それとも、笑顔だけは、かしら。 |
花帆 | あっ、梢センパイひどいです! いつかぜんぶ一級品になってみせますからね! |
梢 | ふふふ。ごめんなさい。さ、背筋を伸ばして。行きましょう。 |
花帆 | はい! |
花帆 | きょうもみんな、来てくれてありがとうね! |
花帆 | 次は、もっともっと上手になって、みんなをもーっと楽しませるから! 楽しみにしててね! |
花帆 | あたし!誰よりもみんなを楽しませちゃうような、 『世界でいちばんのスクールアイドル』に、なるからねー! |
えな | 世界で! |
びわこ | いちばんの!? |
しいな | 花帆ちゃんが!? |
さやか | 花帆さん、すごい……! |
綴理 | うん、すごいね。 |
梢 | もしかしたら、本当になれるかもしれないわね、花帆さんなら。 ラブライブ!、優勝だって──。 |
花帆 | 見ててね!みんな! あたし、がんばるからねー! |