第4話『わたしのスクールアイドル』

PART 4

綴理
……さや。
さやか
夕霧、先輩。
綴理
はあ、はあ……少し、いいかな。
綴理
……話が、したいんだ。
さやか
話……どうぞ?
綴理
ええっと……。
さやか
じゃあ、夕霧先輩。わたしから、良いですか。
綴理
え?
さやか
謝らなければならないことが、あります。
綴理
謝る?さやが?
さやか
目をかけてもらって、根気よく指導してくださっているのに、
ふがいなくてごめんなさい。
綴理
さや……!?
さやか
言われたこと一つこなすことが出来ず、
まるで成長も出来ていないことがとても情けないです。
さやか
だから本当に、ごめんなさい。
綴理
さや、キミは何を言ってるんだ。
さやか
わたしが、夕霧先輩の足を引っ張ってしまって。
あなたの望む理想に、わたしが追いつけないから。
さやか
だから、あんなに、
花帆さんと乙宗先輩の演技を……。
綴理
う、あ……。
さやか
……夕霧先輩に言いたいことは。
いえ、夕霧先輩に判断してほしいことは一つです。
さやか
ふさわしくないと判断したのなら、
わたしのことはいつでも、見限ってください……と。
綴理
待ってほしい、おぼれそうだ……。
さやか
せ、先輩!?
さやか
先輩、お水を……。
綴理
いかないで。
さやか
……あの。
綴理
ボクは。……ボクは、そんなことはなにも思ってない。
さやか
それじゃあ、どうして……。
綴理
……さや。
綴理
怒らないで、聞いてほしい。
さやか
え?
綴理
ボクは言葉が下手だ。伝えるのがうまくない。
もっとボクがちゃんとしてれば、さやをこんなに悩ませたりしない。
さやか
……。
綴理
でも、頑張るから。頑張るから、聞いてほしい。
さやか
先、輩?
綴理
ーーボクはスクールアイドルになれない。
さやか
え……?
綴理
ボクは、スクールアイドルが好きだ。
綴理
初めて見た時、本当に感動したんだ。
綴理
ずっと一人でステージに立っていたボクとは違う。
綴理
ボク自身もよく分かってないところで褒められて、
すごいって言われてただけのボクとは違う。
綴理
スクールアイドルは、一人じゃない。
完璧じゃないかもしれないけど、みんなでがんばって。
綴理
ステージに立ってるみんなでやると、
地球上のどんなものより、きれいに見えるんだ。
綴理
ボクの、一番好きで……一番届かない芸術。
さやか
……。
綴理
あなたは夕霧綴理であって、スクールアイドルではない。
……そう言われた。
綴理
ボクはあれからどんなに踊ってみても、
スクールアイドルになれてない。でも。
綴理
かほも、……こずも、いつのまにか。
綴理
だからごめん。ボクだ。
ボクが、たりない。ボクが、よくない。
綴理
さやは、きれいだよ。
すごいスクールアイドルに、キミはなれる。
綴理
……えと、伝わった……かな。
さやか
……ません。
綴理
え?
さやか
伝わりません。
さやか
さっきから何を言ってるんですか。
あなたこそしっかり聞いてください。
さやか
わたしにとっては、あなたこそがスクールアイドルです!
綴理
……え?
さやか
初めてあなたのステージを見た時に、
言葉なんてなんにも出なかった。
さやか
こんなすごい演技があるなんて知らなかった。
さやか
こんなすごい演技をする人が、
スクールアイドルクラブの夕霧綴理先輩だって知った!
さやか
誰が、あなた自身が、なんと言おうと!
さやか
わたしにとっては、あなたがスクールアイドルです!
綴理
なんで……。
さやか
なんで?そんなの簡単ですよ。
わたしはそもそもスクールアイドルを全然知りません!
さやか
ずっとなにも成長できなくて、それこそ溺れそうで。
どうすればいいのかも、なにを目指せばいいのかもわからなくて。
さやか
蓮ノ空になら何かヒントがあるかもって、
ほんとに最後の希望みたいに縋りついてきたこの場所で。
さやか
どうしようもなく迷ってた時に、
それを全部晴らした希望だったんです。
さやか
まだ頑張れるかもって思えたのは、
先輩の演技が見られたおかげです!
さやか
見る人に希望を与えるのがスクールアイドルなのだとしたら、
わたしがこの学校に来て良かったと心から思えた理由、その人が。
さやか
スクールアイドルじゃなくてなんだって言うんですか!!
綴理
ボク、が。
綴理
でも、ボクはその時も一人で。
さやか
一人じゃダメとか知りませんよそんなもの。
さやか
わたしの憧れに、あんまりひどいこと言わないでください。
さやか
……。
さやか
すみません、やっぱり今のなしで。
綴理
……さや。
さやか
……なんですか。
綴理
スクールアイドルに、なりたい。
綴理
ボクは、ずっと。
スクールアイドルに、なりたいんだ。
綴理
キミは、
ボクをスクールアイドルにしてくれるの?
さやか
何度でも言います。
さやか
あなたは、わたしにとっては最初から、
一番のスクールアイドルです。
さやか
でも、そうですね。
さやか
どうしても一人じゃダメだっていうなら、
わたしが隣に立ってますから。
綴理
ぁーー。
綴理
そう、だね。
さやとならーー。
綴理
踊ろう、さや。
今ならすごいことができそうだ。
綴理
さや。もっとこう……お麩みたいに。
さやか
お麩。
綴理
こうやって、こう。
さやか
えっと……もっと丸くってことでしょうか……。
綴理
うーん……硬い赤巻みたいだ。
さやか
はぁ……。
さやか
こう、ですか?
綴理
……貝?
さやか
わかりません!!!!!
綴理
まって、考える。
さやか
あ、いえ。わたしも色々試してみますので……。
まったく……急にやっぱり出るなんて言い出したかと思えば。
花帆
でも、ライブ大成功でほんとによかったですね!
……そうね。
花帆
梢センパイ?
今度こそ……頑張れると良いわね。
花帆
????
ふふっ。私たちも頑張らないとね?
花帆
そうですね!
さやかちゃん、昨日からすっごく元気ですし!
花帆
でも、お麩だから丸いってどういうこと?
ああ、この辺りだとお麩は丸いから。
さやか
こう……。
綴理
あ、いまお麩。
さやか
!やった!
綴理
貝になった。
さやか
判定が狭すぎる!!
綴理
でも……良い感じだ。
少し、休もうか。
さやか
はい!
綴理
ボクも少し考えを纏めよう。
綴理
お麩っていうのはこう、柔らかくて丸くて、
ふにゃっとしそうでしないみたいな……。
さやか
ん?あれ?
お麩と赤巻と貝?
綴理
ん?
さやか
おでんが食べたいだけじゃないですか!?
綴理
そ、そんなことは。
さやか
……ふふっ。
綴理
さや?
さやか
いえ。ちゃんと材料は買っておきましたから。
明日のお弁当は、おでんにしましょう。
綴理
!ありがとう、さや!
ボクも、さやに応えないと……!
さやか
おでんでそんなにやる気が出るんですか……。
さやか
上達したわけじゃ、ないけど。
でも、また頑張れそうな気がする……。
さやか
あ、そうだ。その間にお水とってきますね!
綴理
ああ、お願い。
綴理
さや。
さやか
はい?
綴理
ボク、頑張るから。
だから、なろう。一緒に……スクールアイドルに。
さやか
……はいっ。