第5話『顔を上げて』
PART 1
梢 | ……なにこれは。 |
綴理 | どんぐり。この前のお礼。 |
梢 | ……ええと? |
花帆 | わ、ちゃんと帽子被ってるやつですねっ。 かわいい。 |
綴理 | そう。意外といなくて大変だった。 かほにもあげる。 |
梢 | それで?なんのお礼なの? |
綴理 | あ。うん、ごめん。待ってね。 えっと……ボクは、こずとかほに、すっごく助けられたから。 |
綴理 | 助けられたのは、ボクがさやの手に気付かなかったことで。 だから、ありがとう。 |
梢 | ……綴理。 |
花帆 | よく、分かりませんけど。 |
花帆 | でも、さやかちゃんが笑ってたし、 綴理センパイとのライブもすっごく素敵だったと思います! |
花帆 | だから、良かった! |
綴理 | かほ。……うん、かほのおかげ。ありがとう。 |
花帆 | 何かできたか、分かりませんけど。ふへへ。 |
綴理 | こずも、ありがとう。 |
梢 | 変わるものね。 あの子がお礼を言うなんて。 |
花帆 | 梢センパイ? |
梢 | ふふっ。……さて、私たちも練習を始めましょう! あちらも、大丈夫そうなことだしね。 |
花帆 | はい!! |
綴理 | っと、こんな感じ。 ……さや? |
さやか | ぁ……いえ。夕霧先輩が、本調子に戻られたようで良かったです。 本当に、素敵だと思います。 |
綴理 | なら良かった。 それで、やり方分かった? |
さやか | ……っ、やってみます。 |
綴理 | ……。んー。 |
さやか | あの、やっぱりダメでしょうか。 |
綴理 | ダメじゃない。ダメじゃないよ。 ボクは好き。 |
さやか | ……ありがとう、ございます。 でもそれは……。 |
綴理 | さやが頑張ってると、とても魅力的に見える。 それはほんとのこと。 |
綴理 | でも、なんかほっぺにご飯粒ついてる感じなのも分かる。 |
さやか | 分かりませんが……。 |
綴理 | 取ってあげたいなぁ。 |
さやか | え、ほんとについてるんですか!? |
綴理 | ついてないよ。 |
さやか | ~~~~!! |
綴理 | でもなんか、気になる。 たぶんそれは、さやも思ってるんだろうけど。 |
さやか | はい……。 それがどうしてなのか……ずっと分からないままで。 |
さやか | 夕霧先輩と振りは同じはずなのに、どうしてこうも違うのか……。 |
綴理 | よし。 |
さやか | 先輩? |
綴理 | 分かるまでボクが踊ろう。 |
さやか | 分かるまで!? |
綴理 | じゃあ、はい。 |
さやか | ちょ、ちょっと先輩ーー。 |
綴理 | ……ふぅ。分かった? |
綴理 | そっか。 |
さやか | 本当に、すみません。ご迷惑ばかりおかけしてーー。 |
綴理 | じゃあ分かるまでやろう。 |
さやか | ちょ、ちょっと待ってください! |
綴理 | なぜとめる。 |
さやか | 止めますよ!毎日やって掴めてないものが、 今日夕霧先輩にめちゃくちゃ頑張らせたからって変わるともーー。 |
さやか | 思えませんし……。 |
綴理 | さや。 |
綴理 | よく分からないけど、 こういうのは続けたから分かるものじゃないんじゃないかなぁ。 |
さやか | でもっ。 |
綴理 | だけど、今日分かるかもしれない。 |
さやか | 夕霧先輩……。 |
綴理 | ボクも、分かったことがあるんだ。 さやと一緒に、スクールアイドルになりたいって。 |
綴理 | だから、さやに出来ることは、なんでもしてあげたいんだ。 |
さやか | っ……。 |
さやか | 最初から、 わたしの目的は夕霧先輩の凄いところを学ぶことでした。 |
綴理 | さや? |
さやか | なのに何の成果も得られないまま、 挙句夕霧先輩にここまで言わせてしまっている自分が 凄く腹立たしいです。 |
綴理 | ねえ、さや。 |
さやか | むぎゅ。 |
綴理 | さやには、全力を出してほしい。 |
さやか | ぜん、りょく? |
綴理 | ボク、いつも思ってるよ。 さやが全力出せば、凄いことになるって。 |
綴理 | そんなさやと一緒ならきっとボクも、 もっともっとすごいことができると思う。 |
さやか | 待って、ください。 ちょっと、ちょっと待ってください。そんなこと言われても。 |
さやか | だって……。 |
さやか | 全力、なんです。これが。 夕霧先輩にとってそうは見えない程度の、これが。 |
綴理 | ? 全力じゃないよ? |
さやか | 全力ですよ! でなければただ、夕霧先輩がわたしを過大評価しているだけです……。 |
綴理 | さや。違う。 |
綴理 | さやは全力じゃない。さやが分かってないだけ。 |
綴理 | だから、さや。 どうしたらさやが全力出せるか、一緒に考えるよ。 |
さやか | え……? |
綴理 | そして、さやが全力を出せたら、 もっとすごいライブをしよう。 |
綴理 | ボクにできることをしたい。 だからそのために、さやのことを、もっと知りたい。 |
綴理 | なんでもいいんだ。 |
綴理 | さやが、ほんの小さな砂粒くらいにでも、 引っかかっているなにかがあれば。話して、ほしい。 |