第7話『センパイとコウハイ』
PART 5
梢 | ……ふたりとも、いるの? |
花帆 | あっ……梢、センパイ。 |
さやか | 綴理先輩……どうして、ここに……。 |
綴理 | ……。 |
梢 | 花帆さんも村野さんも、そんな気まずそうな顔をしなくても良いわ。 記事のために去年のことを調べようとしていたんでしょう? |
花帆 | え、あっ、えっと…… そうです! そうなんです! |
梢 | そうよね。 悪いことなんて何もしていないのだから、そう身構えないで。 |
さやか | ありがとう、ございます。 えっと、おふたりはわたしたちを探しに? |
梢 | いいえ。 そうじゃ、なかったのだけれど。 |
梢 | ……遅かったみたいね。 |
綴理 | 大倉庫に残ってるかも…… って気付くのが遅かったってこと? |
梢 | 人がここに来るんじゃないかって、そう気付くのがね。 その前に、この辺りのものは隠しておきたかったのだけれど。 |
綴理 | 捨てないの? |
梢 | ……捨てないわ。 戒めだもの。 |
花帆 | あ、あの! これーーえっと! 去年、ラブライブ!の地区大会を突破してたんですね! |
梢 | ……。 花帆さん。 |
花帆 | は、はい。 |
梢 | それ、渡してくれる? |
花帆 | あ、はい……。 |
梢 | はあ……。 これは私の失態ね。 ……確かに、辞退したわ。 全国大会。 |
花帆 | 梢センパイ……? |
綴理 | 言うの? |
梢 | この子たちは悪くないもの。 部活のために、頑張ってくれただけで。 |
梢 | 隠せなかったのは私たちの責任。 だから、変にしこりを残すより、きちんと話した方が良いでしょう。 |
綴理 | ……ん。 |
梢 | 去年の今頃は、もう少し部員が居たのよ。 私と綴理を含めて、一年生が三人。 それから、二年生が一人だけ。 |
花帆&さやか | ! |
さやか | ひょっとして、生徒会長の。 |
梢 | ……ええ。 その先輩は……引退したのよ。 |
梢 | それで残された三人で頑張ろうとした矢先に、 もう一人が怪我をしてしまって。 |
花帆 | あっ……。 |
梢 | だから…… ラブライブ!地区大会には私と綴理で出たの。 |
梢 | でもね。 足並みが合わなかったのよ。 綴理と私じゃあね。 |
梢 | だから全国大会は辞退したの。 |
梢 | 地区大会は突破できたし、 突破したからには続けるべきだとも思ったけれど…… |
梢 | これ以上続けてもお互い不幸になるだけだったから。 私は……綴理の隣には立てなかった。 |
さやか | あ……。 |
梢 | だから、もう一緒にやらないって決めた。 でも、それで問題は無いの。 |
梢 | 綴理にはもう村野さんが居て、 私には花帆さんが居るから。 |
梢 | 変に勘繰らせたならごめんなさい。 でも、心配なんて一つもないから。 |
梢 | だからーーこの話はここまでよ。 |
花帆 | 梢センパイ……。 |
梢 | そんな顔しないで。 私たちは、大丈夫だから。 ねえ、綴理。 |
綴理 | ……うん。 |
梢 | じゃあ、先に戻っていて。 私はここを片づけていくから。 |
花帆 | ……あたし、余計なことした。 |
さやか | 花帆さん……。 |
花帆 | 何も言えなかった。 梢センパイ、絶対無理してた。 |
さやか | ……そうですね。 おふたりとも、です。 |
花帆 | どうにかしたいなんて言って…… ただセンパイたちに嫌な思いさせただけだ。 |
さやか | ……。 |
花帆 | ぐすっ。 |
花帆 | あたしたちでどうにかできるかも、なんて言っておいて……。 ほんとにただ、知りたいってだけのバカだったんだ。 |
さやか | っ。 わたしは、そうは思いません。 |
花帆 | ……。 |
さやか | 知りたいというだけではないことは、 大倉庫に行く前の花帆さんの気持ちを聞いたわたしは、 よく分かっているつもりです。 |
さやか | それに、わたしだって、わたしたちにできることがあるならとーー。 |
花帆 | さやかちゃんは。 |
花帆 | さやかちゃんは平気なの……? |
さやか | 平気なわけないじゃないですか。 わたしだって、おふたりのあんな顔は見たくありませんでしたよ。 |
花帆 | だったら……。 |
さやか | でも、花帆さんのそんな顔も見たくありません。 わたしにとっては、同じことです。 |
花帆 | ……。 顔、見せてない。 |
さやか | じゃあ、花帆さんの笑った顔が見たいから。 先輩がたの、笑った顔が見たいから。 |
さやか | その気持ちは同じだから、一緒に大倉庫に行ったんです。 |
花帆 | ……。 |
さやか | 楽しそうでしたよね。 あの写真。 |
花帆 | ……ん。 |
さやか | 先輩がたのあんな顔が見たくないから、 わたしたちふたりで頑張ろうとしたんですよね? |
花帆 | ……うん。 そうだね。 |
さやか | じゃあやっぱり、花帆さんの気持ちは間違ってませんよ。 |
さやか | それにほら、たとえば……あのまま記事を書いても、 きっと良いものにはならなかったでしょうし。 |
花帆 | ……記事。 |
花帆 | ……そ、っか。 |
さやか | 花帆さん? |
花帆 | そっか。 そうだね、そうだよ。 |
花帆 | あたしたち、最高のセンパイをみんなに知ってほしくて頑張ったんだ。 |
花帆 | 梢センパイのことも、綴理センパイのことも、 最高のセンパイだって思う気持ちは今も変わってない。 |
花帆 | ううん、色んなことを知って、もっともっと強くなった。 |
さやか | わたしも、そう思います。 花帆さんの気持ちは、間違っていません。 |
さやか | もしかして、何か気がついたんですか。 |
花帆 | うん。 聞いてさやかちゃん。 |
花帆 | さやかちゃんとふたりで色々調べてさ、 センパイたちふたりはあんなに凄いのに、 それでも暗い顔をするようなことがあったって分かって…… |
花帆 | あたしはやっぱりあの時、悔しいと思ったんだ。 |
さやか | そうですね。 だからこそ、わたしたちにできることがあればと思いました。 |
花帆 | そう。 あたしたちでできることを探した。 センパイたちでできなかったことを、あたしたちだけで頑張ろうとした。 |
花帆 | そしたらあたし、さっき梢センパイに何も言えなかった。 あんなふうに笑って、ここまでって言われたら、ダメだった。 |
花帆 | でも、って言えなかった。 |
さやか | ……その、でも、を、今なら言えますか? |
花帆 | うん! あたし今なら”でも”って言えるよ。 あたしたちとセンパイたちで作れる……暗い顔なんてさせない方法! |
花帆 | センパイたちふたりでできなかったことがあって、 それをあたしたちが勝手に頑張っても、やっぱりできなかったとして。 |
花帆 | まだ、四人では何もしてない!! |
さやか | 花帆さん……。 |
さやか | そっか……。 |
さやか | ……そうですね! |
さやか | ステージの外であっても、上であってもーー 今の蓮ノ空だって、ふたりじゃない。 |
花帆 | うん! |
花帆 | よぉし、そうなったら! パジャマになっちゃったけど、着替えてセンパイのところに! |
さやか | 花帆さん。 今日はもう消灯時間ぎりぎりですから。 |
花帆 | えっ、でも……。 |
さやか | パジャマで行っちゃいましょうか。 |
花帆 | ……だね!! |
花帆&さやか | あははっ! |
梢 | 花帆さん、こんな時間にーーしかも寝間着じゃない! |
花帆 | 梢センパイ! さっきのお話の続きがあります! |
梢 | さっきの……? |
梢 | あれは、もう終わりにしましょうって言ったはずよ。 |
梢 | ……花帆さん、あなたの優しさは嬉しいけれど、 それは私にとって今必要なものではないの。 |
花帆 | いいえ! 必要なことです! |
梢 | ちょっと、声も大きいわ。 ああもう、じっくり話すならまた明日にしまーー。 |
花帆 | 梢センパイ、言ってたじゃないですか!! |
花帆 | 今の綴理センパイにはさやかちゃんが居て、 梢センパイにはあたしが居るって! |
花帆 | 今の梢センパイには、あたしが必要なんです! |
梢 | 花帆さん、何を……。 |
花帆 | あたしにとって、 このスクールアイドルクラブは凄く大事な場所です。 |
花帆 | 凄く魅力的なセンパイたちが居ることを、 みんなにも知ってほしくて色々頑張りました! |
梢 | ……。 |
花帆 | 頑張ったんです! センパイたちのために頑張る、 あたしとさやかちゃんがいるんです! |
梢 | 気持ちは、嬉しいわ。 でも、それはさっきも言ったけれど気持ちだけ。 だからといって、あなたに出来ることは。 |
花帆 | あります! |
梢 | っ。 |
花帆 | 蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブは、 梢センパイと綴理センパイのふたりじゃありません! |
花帆 | さやかちゃんとあたしを入れて四人です!だから! |
花帆 | 撫子祭のライブは四人で!! 四人でやりましょう!! |