第8話『あの日のこころ、明日のこころ』
PART 1
梢が立っている。ざあっと風が吹く。 | |
梢 | 沙知先輩……慈……。 ーー綴理。 |
梢、空を見上げて。 | |
梢 | 私は……どうするのが正しいの……? |
ざ、と足音。 | |
綴理 | 眠れないの? |
梢 | 綴理。 ……あなたこそ、まだ起きているなんて珍しい。 |
隣に並び立つ綴理。 | |
綴理 | うん……。 |
綴理 | さっきね。 さやが来た。 |
梢 | ……そう。 私のところにも、花帆さんが来たわ。 |
綴理 | そっか。 |
梢 | たぶん、言われたことは、同じではないかしら。 |
花帆 | 撫子祭のライブは四人で!! 四人でやりましょう!! |
梢 | 少し……考えさせて。 |
回想から戻ってきて、空を見上げたままの梢と隣の綴理。 | |
梢 | 綴理は、どう返したの? |
綴理 | なにも。 |
梢、振り向く。 | |
綴理 | ただ……お礼は言ったかな。 ふたりは、ボクたちのことを心配してくれてたから。 |
梢 | ……そう。 |
綴理、梢の顔を覗き込む。 | |
綴理 | で、こずは? |
梢 | ……それが分からなくて、ここに居るのよ。 |
困ったような笑みの梢を見て、綴理は言葉を探す。どうすれば、梢のその困った顔を変えられるか。そのために必要な、梢の悩みの解決策を考える。 | |
綴理 | ……こずが決めればいいんだと、思う。 |
梢 | ……どうして? |
綴理 | ーースクールアイドルは、やらされるものじゃないから。 |
梢 | ……綴理。 |
綴理 | 確かに、もうふたりでステージには立たないって約束したけど……。 四人でっていうのは、考えたこと無かった。 だから。 |
梢 | そう、そうなのね。 あとは、私次第。 |
綴理、ぴくっと反応する。梢、綴理に向き直る。 | |
梢 | ……あの時の、曲。 |
梢 | “あの時の曲”を、もう一度私が頑張れたら…… あなたにも、顔向けできるかしら。 |
綴理 | 顔向け? 顔なんて、そんなのいつもこっち向いててほしいけど。 でも、あの曲は……。 |
梢 | ちゃんと……次こそ、ちゃんとした振りで。 |
頷くように呟く綴理。 | |
綴理 | ……そ、っか。 そっか。 |
梢 | なに? |
綴理 | 確かに、前とは違うから。 きっと前よりも良くなるはずだ。 |
梢 | そう、ね。 今の私たちと、昔の私たちは違うって……教えて貰ったから。 |
綴理 | うん。 さやと、かほが居る。 |
梢 | 私もあのふたりの気持ちに、応えてみたい。 |
綴理 | そうだね。 もしそれができたら、今度こそボクはキミとも、 スクールアイドルになれるのかもしれない。 |
梢 | ええ、やってみましょう。 |
綴理&梢 | ふふっ。 |
梢が腰に手を当てて、胸を張って宣言。 | |
梢 | やりましょうか、四人ライブ! |
花帆 | わあっ……! |
手を取り合う一年生。 | |
さやか | やりましたね、花帆さん!! |
花帆 | うん! |
梢、咳払い。 | |
梢 | そこでひとつ、ふたりにはお願いがあるの。 |
梢は一つ深呼吸して、優しく言う。 | |
梢 | ふぅ……。 実は、この撫子祭でやる曲を私に決めさせてほしいの。 |
花帆 | どんな曲なんですか? |
ちらっと綴理が梢を見る。 | |
梢 | その曲はね。 すごく、難しいの。 |
梢 | そして、去年のラブライブ!予選で、私と綴理がやった曲。 |
梢 | 情けなくも私が、綴理の隣に立てるほどのパフォーマンスが出来なくて…… |
梢 | 二度と一緒にやらないって決めた曲。 だからーー。 |
花帆 | じゃあリベンジですね!! |
梢 | えっ? |
花帆 | 分かりました、任せてください! あたし、梢センパイのために精一杯サポートします!! |
梢 | 花帆さん……。 |
花帆 | やりましょう! ねえ、さやかちゃん!! |
さやか | はい。 先輩がたのために、頑張ったんですから。 |
梢 | 花帆さん……村野さん……。 ええ。 私……頑張るわ。 |
綴理 | ありがと。 |
花帆&さやか | えっ? 2 |
綴理 | 四人でライブをやろう、って言ってくれなかったら…… リベンジもしようって思わなかったから。 |
花帆 | はい! よーっし、頑張りましょー! |
さやか | ですね! |
気合を入れる花帆に同意してから、さやかは綴理に向き直る。 | |
さやか | ……綴理先輩。 |
綴理 | うん? |
さやか | 曲を、教えてください。 乙宗先輩でも……難しいと言ったその曲を。 |
綴理 | そう、だね。 |
梢に振り向く綴理。 | |
綴理 | じゃあ始めようか。 こず、振りは覚えてる? |
梢はしっかり振付を覚えているが、後悔とセットでの記憶なので一呼吸置いて頷く。 | |
梢 | ……もちろん。 花帆さん、村野さん。 見ていてね。 |
梢 | ふぅ。 |
綴理 | と、こんな感じ。 |
花帆 | わあ……! |
さやか | すごく……独創的というか。 もしかしてこれ、綴理先輩の作曲ですか? |
綴理 | うん。 |
花帆 | ふへー……すっごくかっこいい曲ですね!! |
綴理 | そう? なら嬉しい。 |
梢 | 去年……急に綴理が持ってきたのよね。 曲できたかも、って。 |
さやか | 綴理先輩らしいですね。 |
綴理、少し目を細めて外を見る。 | |
綴理 | あの時は、こずと一緒に頑張るんだって……それしか考えてなかったから。 |
一瞬目を伏せてから、それを振り払うように気合を入れた表情の梢。 | |
梢 | ……その期待に、私は応えられなかったけれど。 |
梢 | でも、だからこそもう一度やりたいの。 |
さやか | 大きい振りなのに、すごく繊細で……。 とても難しいパフォーマンスなのは、よく分かりました。 |
花帆 | え、さっきのでダメだったんですか!? |
梢&綴理 | ええ/うん |
花帆 | 即答! |
腕を組み、首を傾げて悩むさやか。 | |
さやか | 足並みが合わない、ですか。 確かに、おふたりの動きは雰囲気が違うというか……。 |
綴理はそんなさやかを見て、こくんと頷く。よく分かってるね、というニュアンス。 | |
綴理 | ん。 |
梢 | とにかくこの曲を完成させられなかったことが、私の後悔なの。 |
梢が暗に自分のせいだと言っているように感じられて、もの言いたげに梢を見る綴理。 | |
綴理 | ……。 |
そう言ってから、まっすぐ花帆を見て梢が微笑みかける。 | |
梢 | だから、今度こそ頑張りたいのよ。 |
花帆 | いいですね、わかりました! じゃあ、まずはその足並みですね! |
ばっと花帆がさやかの方を見る。 | |
花帆 | さやかちゃん! やるよ! |
さやか | は、はい。 もちろんなんでもやりますけど、花帆さんはもう何か考えが? |
さやかに力強く頷く花帆。 | |
花帆 | うん。 じゃあ、あたしから! |
二年生、互いに顔を見合わせてから、ふたりして花帆に向き直る。 | |
花帆 | 梢センパイ、綴理センパイ。 足並みが揃わなかった、って言いましたよね? |
梢 | え、ええ。 言ったけれど。 |
綴理 | ん。 |
花帆 | だったらーー足並みが揃うまで、くっついていましょう! |
さやか&梢&綴理 | ……。 |
綴理、ぴとっと梢にくっつく。 | |
綴理 | ん。 |
さやか、それを見てきょとんとした感じで花帆に聞く。 | |
さやか | こういうことですか? |
花帆 | そういうことです! |
梢 | え!? |
花帆 | あたしには、妹がふたりいるんですけど! ふたりはいつも一緒に居て、だから大の仲良しなんです! |
怪訝そうに小首をかしげるさやか。 | |
さやか | つまり? |
花帆 | つまり! |
梢と綴理を交互に見て、両手を広げてアピールする花帆。 | |
花帆 | 一緒に居れば、きっとお互いのことがもっと分かるし…… もっともっと、仲良くなれると思います! |
梢、ちらっとくっついている綴理を見てから、笑みを硬くして花帆に聞く。 | |
梢 | ……いつまで? |
花帆 | ずっとです! |
さやか | なる、ほど。 ……乙宗先輩。 綴理先輩は手がかかりますけど、頑張ってください。 |
梢、さやかからくっついている綴理に目を向ける。 | |
梢 | ほ、ほんとにやるの? |
綴理 | ボクは手がかかるけど、頑張って。 |
梢、息を吐いて花帆に向き直る。 | |
梢 | ……分かったわ。 花帆さんたちに頼ると言ったのは私だもの。 必要だというなら、やってやりましょうとも! |
点描で、しばらくくっついている描写。 | |
梢 | 絶対違うわ。 |
やられたー、とばかりに額に手を当てる花帆。 | |
花帆 | だめかー!! |
さやか | 速やかに次の作戦を考えなくては。 |
花帆 | そうだねさやかちゃん!! 頑張ろう!! |
梢 | はあ。 |
綴理 | こず、いやだった? |
梢 | い、いやではないけれど。 |
梢 | せめて、練習中にくっつくのは、危ないからやめましょう? |
困り笑いの梢に、同じく困り笑いのさやかが頷く。 | |
さやか | それは乙宗先輩の言う通りかと。 |
致し方ないでしょう、とリーダー花帆が腕を組んで頷く。 | |
花帆 | ふむ……。 分かりました、許可します。 |
梢 | あ、ありがとう……? |
さやか | 肝心のダンスレッスンがおろそかになってもいけませんしね。 |
綴理 | 難しい……。 |
さやか | まあ、くっつくのはちょっとアレですけど。 |
花帆 | ちょっとアレだった!? |
さやか | 足並みが揃うように、もっと仲を深めてほしいというのは本当です。 |
綴理 | どうしたらいい? |
さやか | そうですね……たとえばですけど、色々話せたりとか、相談できたりとか。 今までできなかったことができる……とかでしょうか。 |
考え込む綴理。 | |
綴理 | ……ふむ。 |
梢もさやかの言葉に少し思うところがある様子。綴理に目をやっている。 | |
梢 | ……。 |
さやか | わたし自身、綴理先輩に言えなかったお話が、たくさんありましたから。 フィギュアのことで悩んでいたお話だとか。 |
綴理、急に隣の梢に振り向く。 | |
綴理 | こず。 なにか悩みある? |
梢 | ないけれど……。 |
空を仰ぐ綴理。 | |
綴理 | 終わった。 |
さやか | そういうことじゃないんですよ! |
こほん、と咳払いするさやか。 | |
さやか | ……こほん。 で、えっと、頑張ってくださっているおふたりに、 お話ししたいことがあります。 |
梢 | なにかしら。 記事の相談とか? |
さやか | あ、それはもう終わってます。 |
さやか | 乙宗先輩にも撫子祭までには確認してほしいのですが、 今はそれよりもおふたりのことが大事です。 |
花帆のセリフに頷いてチラシを手渡すさやか。 | |
花帆 | そんなわけで、こちら。 |
綴理と梢がふたりで覗き込む。 | |
綴理 | お祭り? |
梢 | 夏も近いし、神社の催しものも増えてくる時期ね。 みんなで行こう、ということかしら? |
梢の問いに、微笑んださやかが首を振る。 | |
さやか | いいえ。 実は今朝、れいかさんと会いまして。 |
綴理 | ああ、れいかさん。 久しぶり。 |
さやかがちらっと花帆を見る。 | |
さやか | アルバイトの人数が足りないみたいで、手伝ってほしいそうなんです。 なのでーー。 |
頷いた花帆が、ぱん、と手を打つ。 | |
花帆 | おふたりでお手伝いに行って来てください! |
二年生、顔を見合わせる。 | |
梢 | おふたりで、って。 |
花帆 | はい! もう、梢センパイと綴理センパイで行きますってお返事しちゃいましたので! |
梢 | もう話も纏まってるの……!? |
さやか | はい。 楽しみにしてる、と言ってくれて。 |
梢 | そう……。 |
一年生ふたり、顔を見合わせる。 | |
さやか | えっと。 |
花帆 | 勝手なことをしてごめんなさい! |
梢 | ……いいえ。 むしろ、お礼を言わなきゃよね。 |
綴理 | そうだね。 ふたりとも、ありがとう。 |
花帆&さやか | えへへっ。 |
さやか | ではでは! |
花帆 | いってらっしゃい! 梢センパイ、綴理センパイ! |
花帆 | ふたりで楽しんできてください! |