第14話『Link!Like!』

PART 1

全体練習。全員が揃って筋トレ中。
それぞれマットを引いて、プランクを行っている。
北陸大会を目前に、猛練習中。
はい、あと10秒! みんながんばって!
瑠璃乃はキツそうで、綴理は淡々と。さやかは実直に、慈は燃えていて、花帆はボロボロ。
なお、12月時点での体力(持久力)ランキングは、以下の通り
梢>さやか>めぐみ≧綴理>>瑠璃乃>>花帆>>女子平均
瑠璃乃
きゅうー……はちー……!
綴理
なな、ろく。
ごー! よんー!
さやか
さん! にい!
ぺたりとその場に倒れ込む花帆。
息をぜぇぜぇと吐く。
花帆
いーちー……! ぜろぉ~!
はぁ……終わったぁ~……はぁ、はぁ……。
ふぅ……。 みんな、お疲れ様。
練習メニューを増やしたばかりなのに、よくがんばってくれているわ。
そりゃ、いよいよラブライブ!北陸大会だからね!
ここでがんばらなきゃ、いつがんばるのって話だよ!
綴理
さや、動ける?
さやか
あ、はい。 わたしは問題なく。
じゃあ、全体練習はここまで。 あとはユニットごとの練習にしましょう。
よっしゃ。 るりちゃんいくよー。
瑠璃乃
お、おっしゃー! みらくらぱーく魂ー!
おー!
バタバタと走り去ってゆく瑠璃乃と慈。
その気合に当てられて、ごくりと生唾を飲み込むさやか。
さやか
おふたりとも、気合入ってますね。
ぎゅっとさやかの手を握る綴理。
驚いて綴理を見上げるさやか。
綴理
ボクだって、さやと一緒に出るのは今年が初めてだよ。
さやか
……そうですね。 わたしたちも精一杯、がんばりましょう!
DOLLCHESTRA魂です!
綴理
どるたまー。
綴理とさやかが、屋上からフレームアウト。
梢と花帆が残される。花帆はまだへばっていた。
花帆さん。
花帆
す、すみません、梢センパイ……。 息が落ち着くまで、もう少し。
花帆
はぁ……、あたしだけまだこんなんで……ごめんなさい。
なに言っているの。
今回のメニューをぜんぶやり切るなんて、
昔のあなたじゃ考えられなかったわ。
ちゃんと、成長しているのよ。
素直に褒められても、花帆は浮かない顔。
実際、自分の実力が足りていないのは確かだし、他にも気がかりがあるのだ。
花帆
……。 あの、梢センパイ!
うん?
花帆
北陸大会って、その、予選大会と同じように、
3ユニットそれぞれで出るんですよね。
だから、ユニット練習もみんな、いつも以上に張り切っているでしょう?
花帆は言いづらそうに口を開く。
花帆
……でも、北陸大会から全国大会に進めるのは、
たった1ユニットだけで……。
それは……そうね。
わたわたと声をあげる花帆。
花帆
た、例えばなんですけど!
花帆
今から変更して、6人で出る、っていうのは……。
ほら、あたしたちも、たまに6人でイベントに出たりしていますよね?
花帆
北陸大会まで時間がないのはわかってます。
でも、あたしもがんばりますから!
梢は花帆の気持ちを汲み取ってあげる。
あなたの言いたいこともわかるわ。
けれどね、肝心なときにばかり全体で出場をしていたら、
私たちがユニットを組んで切磋琢磨している理由が、なくなってしまうの。
花帆
……それは、その、はい。
少し、厳しいことを言ってしまうけれど……。
私たちはみんな、それぞれにやりたいことがあってユニットを組んでいる。
グループで出るというのは、その色を無くしてしまうことだわ。
私はあなたと、スリーズブーケで出場したい。
スリーズブーケだからこそ、
表現できること、伝えられることがあると思っているの。
花帆
梢センパイ……。 すみません、あたし……余計なことを言っちゃって。
……ううん。
ねえ、花帆さんーー。
梢が花帆と腹を割って話そうとしたその瞬間、誰かが駆け込んでくる。
生徒会長・沙知であった。
沙知
た、た、大変だ!
花帆
えっ、生徒会長?
沙知先輩……? どうしたんですか?
沙知
く、詳しいことは部室で話すよ。 大変なことになっちゃったんだ。
ごくっと息を呑みこんで、沙知が普段滅多に見せない真剣な表情で叫ぶ。
沙知
このままだと、来年度以降スクールアイドルクラブが活動できなくなる!
花帆
えっーーえええええ!?
部室に集まる部員たち。
全員の前に立つ沙知が、頭を下げる。
沙知
本当に、申し訳ない。 今回の件は、あたしの力不足だ。
沙知先輩の頭を下げる姿を見て、胸を痛める綴理。
綴理
……さち。
話の見えていないさやかが、きょろきょろと辺りを見回す。
さやか
あの、どういうことなんでしょうか……?
来年以降、活動できなくなるって……。
沙知
そうだね、順を追って話そう。
全員を見回して、ゆっくりと話し始める沙知。
沙知
蓮ノ空女学院には、前々からひとつの議題があがっていたんだ。
沙知
それが『ネット禁止令』。
校内や寮での、ネットの使用を禁止する校則だ。
瑠璃乃
ネット禁止……!?
配信業に力を入れている慈が真っ先に反発する。
ちょ、ちょっと待ってよ!
そんな校則ができちゃったら、配信どころか、動画投稿だって!
慈の言葉に、しっかりとうなずく沙知。
沙知
そう。 そもそもスクールアイドルコネクトーー
スクコネに繋げられなくなってしまう。
沙知
蓮ノ空女学院に携わっている運営の中には、
派閥がいくつかあって、その派閥もそれぞれ主義主張が違っていてね。
沙知
蓮ノ空女学院は全寮制の学校だ。
それなのにネットが使えたら勉学の妨げになる、っていう陣営もある。
沙知
実際、それについては一理あるとは思う。
全員の目が慈を向く。口ごもる慈。
私ひとりが勉強がんばればどうにかなるんだったら、
学校1位だって取ってやるけど!?
威勢のいいことを言う慈に、ほんの少し沙知の表情が緩む。
沙知
はは……それはぜひ見てみたいねぃ。
神妙な顔で発言する梢。
学校側では、『ネットを禁止するべきだ』
という論調がずっとあったんですよね。
この時期にまたそれが問題として持ち上がってきたのは、
やっぱり、スクールアイドルクラブが原因ですか?
花帆
えっ!? なんであたしたちが?
沙知
それはさすがに考えすぎだよ、梢。
確かにこの学校のネット活動として、
沙知
いちばん目立っているのはスクールアイドルクラブだけど、
キミたちが特別やり玉にあげられているわけじゃない。
沙知
強いて言えば、時代の流れってやつだろうねい。
沙知
環境的に、蓮ノ空にとって
『ネット禁止令』はいつかどこかで浮上する問題だったんだ。
ええい、こんなときに!
不安げな顔をするさやかに、沙知も真剣に答える。
さやか
来年度のこととはいえ、どうするんですか? どうすれば……。
沙知
あたしが生徒会長の間は、毅然とした態度で反対の意を示すつもりだ。
ただ、悔しいことに時計の針はいつだって前に進んでいてね。
沙知
12月の末で任期が切れてしまった後、
あたしには打てる手がなくなってしまう。
沙知
反対勢力を止められるのは、現職の生徒会長だけだ。
瑠璃乃
つまり、来年にはネットが禁止されちゃう……!?
沙知の意図を理解した梢が、口を開く。
あるいは……。
スクールアイドルクラブが今と同じ活動を続けたかったら、
誰かが生徒会長になって、学校側と正面から戦い続けるしかない、
ってことですよね。
例えば、私や2年生の誰かが。
沙知先輩のようにスクールアイドルクラブを辞めて。
花帆
そんな! 辞めなくたって……!
蓮ノ空では生徒会長になったら部活には所属できない。
そういうルールなんだよ。
梢たちが一年生のときに沙知がやったことを、今度は梢たちがやらなければならないのかと思い、ショックを受ける一年生たち。
さやか
先輩方……。
綴理
……。
ただ、慈は沙知がそんな頼みをしにくるとは到底思えなかった。どうせ他にも打つ手が残されているのだろうと、沙知に問う。
でもそれは、最後の手段、でしょ?
沙知
うん、もちろん。 まだ任期の満了までは時間があるからね。
あたしも、やれるだけのことはやってみるつもりだよ。
沙知
どうせなら、刺し違えてでも、ってねい!
……無茶はほどほどにですよ。 今度こそ。
沙知
ごめんごめん。
一通り話が終わったところで、目くばせをする一年生。
花帆
ね、さやかちゃん、瑠璃乃ちゃん。
瑠璃乃
うん。
さやか
はい、わかっています。
代表として、花帆が立ちあがる。
花帆
あの、生徒会長! だったらあたしたちも、お手伝いさせてください!
沙知
キミたちが……? でも、もうすぐラブライブ!北陸大会じゃ。
うんうんとうなずく花帆。もちろん、一年生はおろか、二年生たちも。
花帆
練習の時間は、削りません! ちゃんとやります!
花帆
でも、スクールアイドルクラブのピンチを、
黙って見過ごすなんてできません!
沙知
……そっか。 だったら、みんなもいろいろと考えてみてほしい。
沙知
ごめん、クラブを辞めた後も迷惑をかけてしまって。
ゆっくりと首を横に振る綴理。
綴理
ありがと。 そうやって、真っ先に話してくれて。
綴理
それだけでもボクは……すごく嬉しい。
このあいだのボクにはできなかったことだから。
目を丸くした後、くしゃと笑う沙知。
沙知
そうだね。 なんでもすぐに話し合えばよかったんだ。
まさかこんなに簡単なことだったなんて……。 わかんなかったよ、あたし。
……せんぱい。
ふふ。
二年生のほんわかとしたやり取りがあって一段落した後に、花帆が拳を握る。
花帆
よっし、それじゃ。 練習外の時間を使って、早速やってみましょう!