第15話『夢を信じる物語』
PART 2
まず最初に瑠璃乃の様子を見に行くことに。 | |
しかし寮の部屋に行っても瑠璃乃の姿はなかった。もしかしたら外出しているのかもと思ったが、外出届に瑠璃乃の名前はなかった。 | |
梢 | さて……まずは瑠璃乃さん、と思ったのだけれど。 寮にもいないし、外出届も提出されていないみたい。 |
梢 | どこに行ったのかしら。 |
たったったと花帆が駆けてくる。 | |
息を切らしたまま、梢に飛びつく花帆。 | |
花帆 | ……っ、こ、梢センパイ~! |
花帆 | はぁっ、友達が見たって言ってて……! 瑠璃乃ちゃん、ひとりで湖の方に向かった、って! |
※蓮ノ空の湖、なにか名前はありますでしょうか? | |
その言葉に、まだ梢はピンと来ていない。 | |
梢 | ひとりで湖に……? |
花帆 | はい。 なんだか、すっごく落ち込んでたみたいで……。 |
そこで梢は、沈鬱な顔になる。 | |
梢 | そう……心配ね。 急ぎましょう、花帆さん。 |
花帆 | はいっ! |
瑠璃乃が湖の畔で、ぽつんと立っている。 | |
瑠璃乃 | ……。 |
死んだ魚のような目をしていて、ひとりなのに楽しそうではない。 | |
今にも身投げをしてもおかしくはなさそうな雰囲気。 | |
瑠璃乃 | ……みず。 みずだあ。 わあい。 |
一歩を踏み出しそうに見えたそのとき、後ろから猛ダッシュで花帆がやってくる。 | |
花帆 | 瑠璃乃ちゃん!? 危ないっ! |
がしっと腰に抱きつく花帆。 | |
瑠璃乃 | え? |
瑠璃乃 | ーーゔぇっ!? |
花帆 | そんなフラフラしてたら落ちちゃうよぉ! |
瑠璃乃を巻き込んで、花帆が湖に落下しそうになったところを、後ろからがしっと梢が抱き留める。 | |
瑠璃乃 | いや、ちょっと待っ、むしろこれじゃふたりとも、落ちーー!? |
梢 | せ、セーフね……。 |
一瞬、シーン切り替え。同じ場所でまた再開。 | |
早合点してしまった花帆が、瑠璃乃に頭を下げる。 | |
花帆 | ごめん、瑠璃乃ちゃん! 落ち込んで湖に向かったって聞いたから、あたし、つい焦っちゃって……。 |
瑠璃乃 | いや~……。 そっか、心配かけちゃったのかあ。 ごめんね~。 |
謝り合うふたりに、梢が事情を聞く。 | |
梢 | でも、どうして湖に? |
湖を眺める瑠璃乃。 | |
適当な岩に腰掛けて、膝を抱える。 | |
瑠璃乃 | ひとりになりたいなーって……。 静かな場所を探してフラフラしてたら、いつの間にか、ここに~……的な。 |
口をもにょもにょしながら、瑠璃乃がつぶやく。 | |
瑠璃乃 | なんかね~、やっぱりね~……。 ショックだったんだ~……。 |
花帆は、まっとうに落ち込んでいる瑠璃乃を心配する。 | |
花帆 | やっぱり、大会で負けちゃったから……? |
瑠璃乃はかなり言い渋った後(自分が他のみんなみたいに、負けて悔しがるほどのステージに立っていないことが申し訳なくて)、それでも仲間に本音を口に出せないのも嫌で、口を開く。 | |
瑠璃乃 | ん~…………。 |
瑠璃乃 | ごめん、花帆ちゃん。 たぶんルリね、みんなとは違うと思うんだ。 |
花帆 | ……違うって? |
瑠璃乃 | ラブライブ!本戦、すごかった。 |
瑠璃乃 | 出場するスクールアイドルのみんなの熱、っていうのかな。 それがね、もう熱くて仕方なかったんだ。 |
一瞬、ラブライブ!のステージがうつる。 | |
花帆は瑠璃乃がなにに落ち込んでいるのかわからない。代わりに、梢が瑠璃乃に告げる。 | |
瑠璃乃 | ……みんなここに本気なんだなーっていうのがすっごく、 すっごく伝わってきて…… |
瑠璃乃 | ここが本当に、みんなの旅の目的地なんだなって思えたんだ。 |
梢 | すべてのスクールアイドルの、憧れの場所、だものね。 |
頭を抱えて、丸まる瑠璃乃。 | |
瑠璃乃 | うん、みんなきっと、 めちゃめちゃ『スクールアイドル』してたんだと……ルリ思う。 |
瑠璃乃 | でもさ。 ルリは、そんなことに気付ける余裕があったんだよね。 ルリ、だけがさ。 |
瑠璃乃 | ルリだけが……ここに居るだけ、だったんだから。 それが、申し訳なくて、消えちゃいたくなってる……。 イマココ……。 |
顔を伏せて体育座りで丸まったまま、ぼそぼそと声を漏らす瑠璃乃。 | |
花帆 | 瑠璃乃ちゃん……そ、そんなことないよ! あんなに練習いっぱい、がんばってたのに……。 |
瑠璃乃 | うん……。 でもそれは、ただ練習してたってだけで……。 |
瑠璃乃 | そもそも、ルリひとりだったら、 あの場に立つことだってできなかったし……。 |
花帆が何か言いたいのだけど、なにも言えずに口をぱくぱくする。困って花帆が梢を見る。 | |
梢は、瑠璃乃の気持ちをすくい取りながら、言葉を選んで喋る。 | |
梢 | 確かに、そうかもしれないわね。 |
梢 | 瑠璃乃さんは、夏から入部をした一年生。 歴だって、他の子に比べても短いわ。 |
梢 | でもね、スクールアイドルであるかどうかを決めるのは、 憧れた日数や、積み重ねた年月だけなのかしら。 |
梢 | 私はあなたのことも、 素敵なスクールアイドルだって、ちゃんと思っている。 |
ぴく、と瑠璃乃が反応する。 | |
瑠璃乃 | ……梢、先輩。 |
梢、ここで優しく微笑む。 | |
花帆はそんな梢を、憧れの眼差しで見つめている。 | |
梢 | その上で、今あなたにとって必要なことは、 あのステージに立って、いったいなにを望んでいたのか。 |
梢 | 自分の小さな心の声に、 耳を澄ませてあげることじゃないかしら。 |
瑠璃乃 | 心の声……。 ルリに、そんなの、あるのかな。 |
梢 | 願いも夢も、人によって様々だもの。 瑠璃乃さんにもきっと、大切な想いがあった。 |
梢 | ステージのあまりの眩しさに、少し、 見えなくなってしまっているだけなんだわ。 |
梢 | そうじゃないと、あんなに一生懸命練習をがんばれるはずがない。 ただやっていただけなんて嘘よ。 私にはわかるの。 |
瑠璃乃 | どうして? |
腰に手を当てて胸を張る梢。 | |
梢 | 私もね、スクールアイドルを見る目には、少し自信があるんだから。 |
瑠璃乃はぽかんと呆気に取られて、梢を見つめる。 | |
瑠璃乃 | ルリ、そんなこと初めて言ってもらっちゃった……。 |
梢 | そ、そう? 慈がいつも言ってそうだけれど。 |
瑠璃乃 | めぐちゃんも、似たようなことは言ってくれるし、それは嬉しいけども! めぐちゃんはルリが大好きだから、その発言には補正が乗っかる! |
そこで花帆も慌てて前に出てきて、瑠璃乃の手を握る。 | |
花帆 | あ、あたしも! |
花帆 | うちの瑠璃乃ちゃんは世界のどこに出しても恥ずかしくない、 立派なスクールアイドルだって思ってるからね! |
瑠璃乃 | 花帆ちゃんも、実は少し補正が……。 |
花帆 | 乗っかるの!? 補正ってなに!? |
そこで瑠璃乃が立ち上がって、ふたりにぺこりと頭を下げる。 | |
瑠璃乃 | でも、うん……。 ふたりとも、ありがとうございます。 |
瑠璃乃 | 落ち込んでても、 こうやって来てくれる人がいるんだって、こんなミジンコのルリにも、 石コロぐらいの価値があるような気がしてきました……。 |
花帆 | あんなに梢センパイがいいこと言ったのに、まだそこ!? |
梢 | ふふっ。 でも普段の瑠璃乃さんって感じよ。 |
胸の前で、きゅっと小さな手を握りしめる瑠璃乃。 | |
瑠璃乃 | きっと……今まで『めぐちゃんと楽しむためにやってること』 っていうのを、言い訳にしてた部分があったんだと、ルリ思う。 |
瑠璃乃 | だからハッキリと自分で、 スクールアイドルだぞー、って胸を張れなかったのかも。 |
瑠璃乃 | 勝ち負けとかも、ほんとはあんまり好きじゃなくて……。 でも、終わってみたら、やっぱり勝ちたかった。 |
瑠璃乃 | 負けて悔しいっていうより、 たぶん勝ったらもっと楽しかったんだって、そう思うから。 |
瑠璃乃 | だってルリは、 楽しいことがしたくてスクールアイドルになったんだ。 |
瑠璃乃 | 今教えてもらったこの気持ち……この声を、 もっとちゃんと言葉にできるように、がんばりたいです! |
花帆 | うん、すごくいいと思う! |
梢 | そうね、素敵だわ。 でもその言葉、いちばん慈が聞きたかったでしょうね。 |
花帆 | そういえば、慈センパイは? |
瑠璃乃 | めぐちゃんは……あ゛。 |
瑠璃乃が口に手を当てて、わななきながら告げる。 | |
瑠璃乃 | めぐちゃん……超絶メンタルヤバヤバかも! |
花帆&梢 | え? |