第18話『いずれ会う四度目の桜』
PART 9
梢 | うーん……。 |
綴理 | もう1曲作るなら、やろう。 |
梢 | そうね……。 それももちろんなのだけれど……。 |
慈 | やっほー。 ……一年ズは? |
梢 | この時期の一年生は卒業式の予行で、会場設営の仕事があるのよ。 去年私たちもやったでしょう? |
綴理 | この前3人だったときも、それだった。 |
慈 | あー、そんなこともあったっけ。 二年で良かったー。 |
梢&綴理&慈 | ……。 |
慈 | ……昼間、沙知先輩来たじゃん? |
梢 | そうね。 この部室を見納め……だったわね。 |
慈 | やっぱり、いつも明るい沙知先輩でも卒業前はしんみりするのかな。 |
梢 | それは、そうでしょう。 3年間を過ごした学び舎を離れることになるのだもの。 |
梢 | 私だって、その時になったらどう思うか分からないわ。 ……ただ。 |
綴理 | ……それだけじゃない気が、した? |
慈&梢 | ! |
慈 | ……綴理はそう思った? |
綴理 | 分かんない。 こずの言う通りかもしれないし。 ただ……留年したくは、なさそうだった。 |
梢 | ふふっ。 留年したくはないでしょう。 でも、そうね。 |
梢 | この学校に対する未練というより、私は沙知先輩のあの目に…… なんというか、後悔のようなものを感じた気がするの。 |
綴理 | 後悔……さちが……。 |
慈 | ま、ふたりもそんな風に思ったんだったら、話が早いや。 |
梢 | 慈? |
慈 | 理由はわかんないけど、シンプルにさ。 |
慈 | 残り短い学校生活、沙知先輩にあんな顔で過ごさせるの、 なんか腹立つなーと思ったの。 私はね。 |
慈 | せっかく沙知先輩のためにーってこっちがやってる時だからかな、 余計に。 |
綴理 | そうだね。 ボクもそう思う。 じゃあ、行く? |
慈 | 話が早いじゃん。 話が早くなったじゃん、綴理。 |
梢 | ……腹が立つかは、おいておいて。 そうね、私もーー最後くらいは、良い後輩で居たいわ。 |
沙知 | 突然こんなとこ呼び出すからびっくりしたよ。 |
沙知 | もうあたしは生徒会長じゃあないんだからね? 鍵は借りられたけども。 |
梢 | すみません。 ここが1番、落ち着いて話せるかと思いましたので。 |
沙知 | ふむ? |
沙知 | ……なんというか、この4人というのも、久しぶりな感じがするねぃ。 |
沙知 | 綴理の好きなお菓子も……まだあったかなぁ。 |
綴理 | ありがと。 |
梢 | 少しは遠慮というものをね……。 |
沙知 | まあまあ、良いじゃないか。 えっと、この戸棚の奥にしまってあったから……。 |
慈 | あー私が取る私が取る、無理しないでくださいちっちゃいんだから。 |
沙知 | ちっちゃいゆーな! |
綴理 | 昔、こずがさ。 |
梢 | ? |
綴理 | ああやって高いところに手を伸ばしてたさちの両脇をさ、 後ろからがばっと持ち上げてさ。 |
梢 | あー……。 |
綴理 | さち、あの日は何も言わずに、日が沈むまで窓の外を眺めていたね。 |
梢 | 良かれと思ってやったのよ、私は……! |
慈 | ……あのさ、沙知先輩。 |
沙知 | ん、しょ、くんのっ……。 ん? |
慈 | なんか、卒業以外でセンチになってることないですか? |
慈 | わりとそんな感じがして、私たちみんなで来たんですよ。 |
慈 | けっこう、頼りになる後輩でしょ、私たち。 |
沙知 | そうだね。 |
沙知 | ふー……いやぁ、情けないね、あたしは相変わらず。 そんなに分かりやすかったか。 |
綴理 | こずもさちも、分かりにくいけど、付き合いも長いので。 |
梢 | 私のことは今はいいのよ……。 沙知先輩、何かあるなら話してもらえませんか。 |
梢 | 私たちはただ、卒業までの時間を、 沙知先輩にそんな顔で過ごしてほしくないだけなんです。 |
沙知 | ……そう、だねぃ。 |
沙知 | キミたちにとって、後輩はどんな子たちだい? |
梢 | ……どんな、ですか。 一言で言い表すのは、とても難しいのですが。 |
綴理 | スクールアイドル、とか……? |
慈 | なんか……全部。 みたいな。 |
沙知 | 今はそれで十分さ。 改めて、大切な出会いだったみたいだね。 あたしも、自分のことのように誇らしい。 |
沙知 | キミたちが、一年生との出会いを嬉しく思っているように…… あたしにとっても、キミたち新入生は……救い、だったんだ。 |
慈 | あの問題児どもが? |
綴理 | 自分で言うんだ? |
沙知 | あはは、そうとも。 |
沙知 | 三年生の先輩たちが卒業して…… あたしはひとり、この部活に残された。 |
沙知 | ……新入生が誰も入って来なければ、ここの部員はあたしだけ。 ……つまり、廃部が間近に迫っていたんだ。 |
梢 | ……。 |
沙知 | 三年生の先輩たちは、あたしにとっては恩人でね。 |
沙知 | 理事長の孫娘として、言われた通りのことしかしてこなかったあたしを…… このスクールアイドルの道に引き込んでくれた大切な人たちだ。 |
沙知 | だから、本当に怖かったんだ。 |
沙知 | もしも誰も入って来なかったら、 誰もスクールアイドルクラブに興味を持ってくれなかったらーー。 |
沙知 | これまで先輩たちが積み上げてきた、重ねてきた歴史を、 あたしが潰すことになるって。 |
綴理 | そうならなくて良かった。 |
沙知 | そうだね。 最高の後輩に恵まれたおかげだ。 |
沙知 | あたしは、先輩に恵まれた。 |
沙知 | 後輩にも、本当に恵まれた。 でも、だからかな。 |
沙知 | その間を繋いでいたあたしは、先輩に恵まれた分を、 後輩に返せた自信がない。 |
沙知 | こうして、キミたちにこんなことを言ってしまってるんだから、 なおさらね。 |
慈 | ……。 |
沙知 | 思えば、多くつまずいてしまった。 キミたちを傷つけてばかりだったし……助けてもらってばかりだった。 |
沙知 | だから、だからあたしはせめてーー。 |
綴理 | こず、めぐ。 |
沙知 | っ? |
綴理 | わがまま言ってもいいかな。 |
慈 | いいよ。 |
梢 | ものによる、と言いたいところだけれど。 きっと、考えていることは同じだから、構わないわ。 |
沙知 | キミたち、何を。 |
綴理 | 聞いて、さち。 さちにしか届かない、150点。 |
沙知 | っ……。 |
綴理 | ごめんね。 |
綴理 | さちに貰ったものは、後輩に返せばいいって言われてたけど…… どうしても、さちにも返したかった。 |
梢 | これが、私たちの気持ちです。 |
慈 | ーーねえ、沙知先輩。 私たちがここに居るのは、あなたが居たからだよ。 |
沙知 | うっ……くっ、ぁ……。 |
梢&綴理&慈 | 以上、第102期蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブでした。 |