第1話『未来への歌』
PART 16
梢 | ……最近、部活に来ていないわね。 あの子。 |
花帆 | あ……梢センパイ。 |
花帆 | あたし、吟子ちゃんと話してみたんです。 |
花帆 | そうしたら、ここはもう、憧れてた芸楽部じゃない、って……。 自分がスクールアイドルを続ける意味は、ないって……。 |
梢 | ……そう。 |
花帆 | でも、あたし、諦めたくなくて。 |
花帆 | 一年生の教室にもいってみたんです。 吟子ちゃんがいたのに……声をかけられなくて……。 |
花帆 | 怖かったんです……。 あたし、勇気が出なくて……。 |
花帆 | ちゃんと先輩がんばろうって思ったのに……。 |
梢 | ……それはね、花帆。 あなたが弱くなったわけじゃないわ。 あなたに、上級生としての自覚が芽生えたからよ。 |
花帆 | え……? |
梢 | これが本当に正しいことなのかわからなくて……自分の選択が、 もしかしたら相手の未来を奪うかもしれない。 |
梢 | だから、臆病になってしまっているのだわ。 |
梢 | 去年の私と、同じように。 |
花帆 | 梢センパイ……。 |
梢 | 私だけじゃないわ。 沙知先輩も、さらにその上の先輩も、 みんな、みんな。 同じように、繰り返してきたの。 |
花帆 | これは、あたしのわがままかもしれません……でも、あたし! 吟子ちゃんにスクールアイドルをやってほしいんです! |
花帆 | 吟子ちゃんは、同じなんです! 去年のあたしと! |
花帆 | がんばりたいのに、でも、どこにもいけなくて、 息苦しい毎日を過ごして……。 |
花帆 | そんなのつらいです! |
花帆 | あたしは、スクールアイドルクラブに入って、変われました。 梢センパイが、あたしの壁を壊してくれたんです……。 |
花帆 | だから、お願いします、梢センパイ……。 あたしじゃ、だめなんです……。 |
花帆 | 梢センパイが言ってくれたら、きっと、吟子ちゃんだって! |
梢 | ……私に任せてくれるというのなら、もちろん、 あなたたちのために言葉を尽くすわ。 |
花帆 | センパイ……。 |
梢 | けれどね、花帆。 あなたは本当に、それでいいのかしら? |
花帆 | でも! |
花帆 | あたしは、うまくできないんです! 梢センパイみたいにやってもだめで! だったらあたしなりにやろうと思っても、また失敗して! |
花帆 | 肝心なときだけ、梢センパイを頼って! |
花帆 | そんなんじゃ、 また梢センパイの後ろをついていくだけのあたしになっちゃうって、 わかってるんです! |
花帆 | センパイと、ラブライブ!を優勝するって誓ったのに……! でも……! |
花帆 | あたしの言葉じゃ、吟子ちゃんに、届かない……。 届かないよ……。 |
梢は花帆の隣に座る。 | |
その震える小さな肩を抱きしめる。 | |
梢 | ねえ、花帆、覚えている? 私とあなたが、初めてスリーズブーケになった日のことを。 |
花帆 | 梢センパイ……。 |
梢 | 私たちも、最初からうまくいっていたわけじゃないわ。 すれ違って、想いをぶつけあって、手を取り合って。 |
梢 | ようやく、一緒のユニットになれたわね。 |
梢 | もしあのとき。 私か、あなたのどちらかが諦めていたら、 今のようにはなれなかった。 |
梢 | 綴理とさやかさんもそう。 慈と瑠璃乃さんもそう……。 |
梢 | きっとね、スクールアイドルクラブは、 ずっと、ずっと、そうしてきたの。 |
力強い梢の言葉に、花帆が梢を見つめ返す。 | |
梢がハンカチで花帆の涙を拭くと、花帆の目には小さな光が浮かんでいる。 | |
梢 | 大丈夫よ、花帆。 あなたの言葉は、吟子さんの心に届くわ。 私は先輩から受け取ったものを精一杯、あなたに伝えてきた。 |
梢 | だから大丈夫。 あなたなら、大丈夫よ。 |
花帆 | 梢センパイ、あたし……。 |
花帆 | 諦めなければ、あたしの声は、届きますか……? |
梢 | ええ、必ず。 |
梢 | ふふ、それとも、どうする? やっぱり、私が代わったほうがいいかしら? |
花帆 | ……わがままで、ごめんなさい。 うまくできなくて、 また、梢センパイにお話を聞いてもらうかもしれません。 |
花帆 | でも……あたしが吟子ちゃんと、 スクールアイドルをやりたいんです。 |
花帆 | 吟子ちゃんを、笑顔にしたいんです。 |
梢 | ……いいのよ。 何度だって、手を差し伸べるわ。 |
梢 | 二年生になっても変わらない。 あなたは私の、かわいいかわいい後輩なんだから。 |
花帆 | えへへ……。 |
花帆 | 梢センパイにそう言ってもらえると、あたしも、 何度でもがんばれる気がしてきます……。 |
梢 | ふふ。 自分ひとりじゃできないことだって、繋がれば、それが力になる。 |
梢 | だから私は、歴史ある蓮ノ空が好きなの。 |
花帆 | はい……。 あたしも、蓮ノ空が好きです。 |
花帆 | あれ……? 蓮ノ空の、歴史……? |
梢 | 花帆? |
花帆 | もしかしたら……! |
花帆 | あたしの声を届ける方法が、わかったかもです! |
花帆 | センパイ! 芸楽部時代からのスクールアイドルノートって、 今どこにありますか!? |
花帆 | 芸楽部ができてから、約60年。 これが、60年分のスクールアイドルノート……。 |
花帆 | すごい、ダンボール何個あるんだろ……。 |
花帆 | ええと、1年でノート4冊使うとして……。 60年だと、240冊!? すっごいなあ……。 |
花帆 | ……よし、とりあえず、運ぼう! |