第3話『星に憧れて、花は舞う』
PART 2
暗転した状態で、ベッドに花帆を乗せる音。 | |
さやかと吟子がふたりがかりで頑張っているイメージ。 | |
画面が明るくなり、花帆はベッドに寝たまま上体だけ起こしている、起きてる時の入院患者スタイル。梢もやってたように額に冷えピタなど? | |
さやかと吟子が、花帆の前に立っている。さやかの抱えていたダンボールは脇に置いてある。 | |
花帆はここで自分が倒れることの重大さを認識しており、めちゃくちゃ謝る。ここはコミカルに。 | |
花帆 | ごめんなさいいいいいい!! |
吟子 | あんまり大声出さないの、頭痛ひどくなるでしょ。 |
花帆 | もう変わんないよ! |
そこに苦笑いしながら制するさやか。 | |
さやか | 謝ることは何もありませんから! |
花帆 | でもでも! みんなで考えようねって矢先に言い出しっぺがダウンしてたら! |
さやか | 体調は何にも代えられませんよ。 熱もけっこう出てるんですか? |
花帆 | 大丈夫、こんなの微熱微熱。 |
吟子、首を横に振る。 | |
花帆が起きようとするのをさやかが慌てて止める。 | |
さやか | 何をわけの分からないことを言ってるんですか! 昔の梢先輩ですか! |
吟子 | えっ、梢先輩がこんなむちゃくちゃ言うはずないじゃないですか! |
言ったんだよなあ……となる花帆とさやかが気まずそうに目を逸らす。 | |
沈黙が舞い降りた場で、ちょっと引き気味に吟子がぼそり。 | |
吟子 | ……え、ほんとにあったの。 |
さやか | ……と、とにかく。 たぶん、最近の無理が祟ったんでしょうね。 |
花帆 | え、無理なんて。 |
さやか | 姫芽さんと話し合ってから、ずっと頑張っていたんでしょう。 それこそ、授業中もうつらうつらするくらいに。 |
花帆 | そ、れは……うぐぐ。 |
さやか | 去年、わたしが倒れたときには、 花帆さんが同じようなことを言ってくれたじゃないですか。 |
さやか | 花帆さんの体調を治すことが今は最優先です。 |
花帆 | はぁい……。 |
吟子 | いちおう、私も看病経験がないわけではないので。 |
さやか | もちろん協力しますよ。 明日からの練習は、少し自主練中心にしましょうか。 |
花帆 | ちょ、ちょっと待って! ロックフェス、ロックフェスはどうなるの!? |
吟子とさやかが顔を見合わせる。 | |
吟子 | どうって、花帆先輩がこんななのに。 |
さやか | 流石に花帆さん抜きではできませんよ。 |
さやか | ロックフェスの舞台で、 ライブに来たみなさんに本気の想いを伝えられるのは、 花帆さんだけなんですから。 |
花帆 | えー!? |
さやか | ある種、路線が決まったと捉えることもできますよ。 ちゃんと別の形でステージを探しておきますから。 |
花帆 | そ、っかあ……。 頑張ったん、だけどなあ……。 |
吟子とさやかが顔を見合わせる。 | |
吟子 | ……いったん私が花帆先輩見てますよ。 |
さやか | はい、あとで代わりますね。 花帆さん。あなたの健康が第一ですよ。 |
花帆 | ……うん。 |
瑠璃乃 | そっか、じゃあ出るのやめるってことでいいの? |
さやか | はい、というよりもそうせざるを得ないというのが正しい形ですが。 |
瑠璃乃 | そ、っか~……。 |
さやか | ? 瑠璃乃さんは、もともとあまり前向きではなかったと思いましたが。 |
瑠璃乃 | ルリはね。 でもさっきまで、みんなでロック聴いたり ロックフェスの動画見たりしてたんだ。 |
さやか | そうなんですか。 |
瑠璃乃 | そしたらさ、セラスちゃんがこういう曲作りたいなーって言い出して。 |
瑠璃乃 | 今ある曲のロックアレンジとかも 楽しそうだよねーみたいな感じで話が膨らんで。 |
瑠璃乃 | 小鈴ちゃんも振り付けとかやってみたいって。 泉ちゃんも、小鈴ちゃんのロックな振り付けは期待できそうだねって。 |
瑠璃乃 | ルリも、すっごく楽しそうだなーって思ってたから。 |
瑠璃乃 | 気づいたらみんなのノリに乗せられてた、かな。 えへへ。 |
さやか | ……。 |
瑠璃乃 | あ、違うからね。 だからやろうって言うんじゃなくて。 |
さやか | はい。 花帆さんがダウンした以上は、進めるつもりはありませんが……。 そうですか。もう、みんな乗り気になっていたんですね……。 |
瑠璃乃 | ……あのさ、さやかちゃん。 一個聞いていい? |
さやか | はい、なんでしょう。 |
瑠璃乃 | さやかちゃんが乗り気じゃなかったのって、 みんなのことを考えてだったりする? |
瑠璃乃 | さやかちゃんって……知らないところに飛び込むってこと、 そんなに怖がってたかなって。 |
瑠璃乃 | そういうのを気にするイメージは無かったから。 |
瑠璃乃がそう言うと、さやかは少し考えてから、自分の気持ちを素直に口にする。困り笑い。 | |
さやか | ……だって、みなさんには笑っていてほしいじゃないですか。 |
さやか | わたしひとりの舞台であれば、たとえ準備不足であろうと、 求められた舞台に立ちたいと思っていたでしょう。 |
さやか | でも、花帆さんの夢は、 いつか本当にたくさんの人を巻き込んで大きく花開く。 |
さやか | 知っていますか、瑠璃乃さん。 あの人、一昨年の今頃にはもう、 夢は100万人ライブだって言っていたんですよ。 |
瑠璃乃 | そんな大人数が入れる会場は、ないねえ……。 |
遠くに想いを馳せるように、さやかが呟いて。 | |
さやか | ふふ、はい。 でも、今は本当にできそうな予感さえ、する。 |
それから改まって瑠璃乃に向き直る。 | |
さやか | だからこそ、わたしはわたしの役割を果たさないとと思うんです。 |
瑠璃乃 | そっかー……。 |
さやか | あの、なにか。 |
瑠璃乃 | ううん。 ステージ、頑張って探してみるよ。 |
瑠璃乃 | さやかちゃんがみんなのために頑張りたいのと同じようにさ。 ルリは、みんなに楽しそうにしててほしいから。 |
優しく言う瑠璃乃に、さやかも柔らかく微笑む。 | |
さやか | ……はい。 お願いします。 |
花帆が寝ているところに、さやかが入ってくる。 | |
さやか | 入りますよ、花帆さん。 |
寝息が聞こえて、ちらっとそちらを見るさやか。 | |
花帆 | ……すう、すう。 |
花帆 | 待ってて、みんな……。 |
その言葉に、さやかは足元に目をやる。さっき勉強するために用意したダンボールがある。 | |
さやか | ……。 |
花帆の想いを察して、眉を下げるさやか。 | |
さやか | みんなが楽しそうに……。 このロックフェスも、そのための足掛かりだったんですよね。 |
さやか | ……仕事でもしていますか。 |
切り替えるようにそう言ってから、さやかは机の上に開かれたノートに気付く。 | |
さやか | これは……何かのリスト? |
さやか | 出演するロックシンガー、その特徴、良さ、真似できそうなこと。 ロックとは何か……音楽性、熱量、ステージ、気持ち……。 |
さやか | 蓮ノ空のメンバーがどんな曲に向いてそうかなんてことまで………… え、わたしデスメタルなんですか!? |
花帆 | ……あれぇ、吟子ちゃんがさやかちゃんになってる。 |
はっとしたようにさやかが振り向く。 | |
さやか | すみません、起こしてしまいましたか。 吟子さんと代わりました。 |
上体を起こし、ぐーっと伸びをする花帆。 | |
花帆 | けっこう寝ちゃってたんだなー。 |
さやか | 寝てていいですよ! |
さやかの持っているものを目にして、首を傾げる花帆。 | |
花帆 | ううん、すっきり目覚めた感じ。 あれ、あたしのノート? |
さやか | 勝手に見てしまってすみません、仕事をしようと思ってて。 机を見たら、その。 |
花帆 | ううん、全然。 今朝までやってて、そのまま学校行っちゃったから。 |
さやか | 徹夜してるじゃないですか! もー! |
花帆 | ごめんって! |
さやか | ……でも、そうですね。 ごめんはこちらの方です、花帆さん。 |
こてんと首を傾げる花帆に、さやかは続ける。 | |
さやか | ロックフェスに出ようという決意は、決して生半可な思いつきではなかった。 わたしの想像の遥か上まで、花帆さんは頑張っていたんですね。 |
ちゃんと考えていたのに、自分はただの常識だけで止めてしまった。そんな風に語るさやかに、花帆はにへらと笑いながら言う。 | |
花帆 | 全国探しても使えるステージがなかなか見当たらないから、 流石に探し方変えないとなーって思って、 |
花帆 | 色々探して……ようやく見つけた候補だからね。 |
さやか | 条件を変えて、 考え方を変えて……ステージが手に入る大会をようやく見つけて……。 |
さやか | だからこその、この研究……。 |
花帆 | うん。 石川で見つかったのは、 本当に偶然というか……すっごくラッキーだったよねえ。 |
さやか | …………ねえ、花帆さん。 |
さやか | こんな風になるまで、急ぐ必要あったんですか? |
花帆 | ……。 |
花帆 | できるだけ、早くみんなに届けたかったんだ。 |
さやか | まだ焦るような時間ではないと思いますが……。 |
花帆 | ううん。 あたしは、みんなが花咲けるステージを作るって言った。 |
花帆 | それがなんなのかも分からないまま、待たせちゃいけない。 待ってもらうなら、期待してもらわなきゃ。 |
花帆 | こういうことをやるんだっていうのは、 ちゃんとみんなに早く届けてあげたい。 |
花帆 | 期待されないステージには、誰も来てくれないでしょ。 |
花帆 | どんなにいつでもライブができる場所だったとしても、 人が来てくれないんじゃしょうがないもん。 |
さやか | ……それもちゃんと、考えていたんですね。 |
花帆 | そりゃそうだよー! じゃなきゃただわがまま言ってるだけの人になっちゃうじゃん! |
花帆の反応を受けて微笑むさやか。 | |
さやか | ふふ、そうですね。 |
さやか | ……連日寝不足になるくらい頑張っていたのは、 待ってくれているみなさんを想う気持ちから。 |
さやか | みなさんの期待に応えるためにも、 このステージをどうしてもものにしたい。 |
花帆 | ……うん。 |
がっくりと肩を落とすさやか。 | |
さやか | わたしは愚か。 |
花帆 | え、なんで!? |
さやか | だって! 花帆さんの想いがどれほど大きいものかも分からないまま、 これを諦めようとしていたんですから! |
花帆 | や、でも冷静に考えたらさやかちゃんの言う通りなのはあたしも重々承知で! |
さやか | そうです、冷静に考えるとわたしになってしまう。 でも必要なのは花帆さんの、冷静さを失った力なんです! |
花帆 | 褒めてる????? |
さやか | みなさんも、ロックフェスに乗り気になっていると聞きました。 |
さやか | このままやめるのは賢いかもしれませんが…… わたしのやりたいことでもない。 |
さやか | 瑠璃乃さんにも言われたんです。 みんなが楽しいことが一番。 だとしたらわたしは今果たして楽しいのかと。 そんなことはない。 |
花帆 | えーっと……? やってくれる、って、こと? |
さやか | はい。 |
花帆 | そっか……ありがと! いつもわがままばっかり、ごめんねえ。 |
さやか | ふふ、いつものことじゃないですか。 花帆さんのわがままは。 それに、花帆さんの思いつきはいつだってクラブをいい方向に導いてきた。 |
花帆 | ……そうだと、嬉しいけど。 |
さやか | でも、そうですね。 だからこそ、誰もが花帆さんを頼る。 |
さやか | 花帆さんがいないと成立しないと思ってしまう。 事実わたしも、ロックフェスの参加を諦めるつもりでいた。 |
花帆 | えっと? |
覚悟を決めたさやかは、まっすぐ花帆を見つめて宣言する。 | |
さやか | つまり……わたしのやるべきことは…… 花帆さんのいない中で、花帆さんの存在を埋め、目的を達するためには…… |
さやか | するべきことは、ただひとつ。 |
花帆 | さやかちゃん? |
さやか | わたしはこれからーー花帆さんになります! |
花帆 | なんで!?!? |