うーん……？ 電気、電気……スイッチどこだっけ。
……まいっか。見えないわけじゃないし。

ケースがいっぱいだー。 高いところまでぎちぎち……
確かにごちゃごちゃ。 よし、これが綺麗になれば、徒町も役に……。

さやか先輩が部屋をぴかぴかにしてるの見ると、すごいって思うもんね。
やるぞー。

ま、ず、は……とりあえずいっぺん全部降ろしちゃおうかな！
ん、しょ……！

はれ？

あぶねえ！！！！

う、うう……？

ぐっ……ってえ……！！

え？

怪我は？

大丈夫です……って、あなたこそ！！

なんとも、ねえよ……。

ご、ごめんなさい……。

ふん……。

え゛、お前は……。

へ？ あ、さっきの……。

……。

睨まれてる……！？

に、睨んでるわけじゃっ……わけ、じゃ……！

……その、ええと……！

？

う、ううううう……！

睨んでるわけじゃないのだわ！
大変可愛らしいお姿を見つめていただけですわ！ おほほほほ！

……。

ほほ、ほ……今の誰！？

いやこっちの台詞！！

なんなんだよそのお嬢様！！ ご趣味はスクールアイドルウォッチングか！！
鳥が相手だから許されんだよ見つめる趣味は！！
スクールアイドルも詩を書くからどちらもバアドですねってか……
うるせえな！？

ええ……？

うわあああんそんな目でアタシを見るなあああああ！！

……は？

え？

あ、開かねえ……！

うそ……。

おわった……こんな冷め切った空気で……徒町小鈴と……。

あのお……。

なんだよ……笑えよ……。

と、閉じ込められちゃって、ごめんなさい……。
たぶん、扉が歪んじゃったんですよね。 さっきので……。

……。

スマホ置いてきちゃったから、その。
声出して助け求めてみたり、しようかなって。 思うん、ですけど。

……。

あう。

……焦らなくても、いい。
どのみちこの倉庫には閉店前に誰かが来るから……。

そ、そっか！ 良かったです！

……。

……怪我、大丈夫ですか？

怪我は……してねえって。

良かった……。

……。

なにか……話しません？

え？

徒町、あまり黙ってじっとしているのが得意じゃなくて！

……無理だ。 徒町小鈴と話すなんて。

ど、どうして？

…………緊張する。

えええええ！？

か、徒町ごときに、なぜ！

ごときなんて言うんじゃねえよ。
お前は……すげえスクールアイドルじゃんか。

っ！
す、スクールアイドルって知ってたんですか！？

知らねえわけねえだろ。
アタシは……市場でバイトしてんだから。

ご、ごめんなさい、徒町はあなたのこと知らなくて……。

いいんだよ別に、認知なんてしなくて。

アタシみたいなのとつるんでるなんて思われてみろ。
お前にもろくなことがねえよ。

そんなことは！ ……あ。

さっきの、近寄るなって。

……まあ。 そういう意味では、ある。

わざわざ嫌われにいかなくても！

そもそもアタシはここで働かせてもらってる身だ。
市場に迷惑かけるつもりはねえよ。

……そういう、ものなんですか？

ああ。 そういうものなんだ。

でも。 せっかくっていうのも変だけど……話せて嬉しい、かも？

はあ？

たぶん、こうなってなかったら、徒町と話してくれなかったってことでしょ？
緊張？ もなくなったみたいだし。

……。

あはは！

そう、だな。 ……気づいたら、話せてた。
まあ、あそこまで醜態さらしたら……もう今更って思えたのかもしれねえな。

？

や、なんでもねえ。 ただ……ありがとな。
まさかアタシが徒町小鈴と話せるとは、思わなかった。

ふぇ？ う、ううん。
徒町も、話せて良かった。

小鈴ちゃーん！！ 広実ちゃーん！！ いるのー！？

お。 来てくれたみてえだな。

ああ、開けてくれ！ 扉がうまく開かないんだ！！
色々ぶつかって、歪んじまったみたいで！

分かったわ、みんなで開けてみる！！

ば、バイト、大丈夫でしたか！？

ん？ ああ。 頭下げたら、それでしまいだった。

うちの店長は、
閉じ込められて働けなかったからってクビにするような人じゃねえよ。

むしろたまたまアタシを倉庫に行かせたから、
お前を下敷きにせずに済んだってさ。

店長も、自分の名采配だって笑ってたよ。
だからまあ、アタシのことは心配しなくて良い。

うう……。

徒町、なにかあなたにお礼がしたいです！
なにか徒町にできること、ありますか！？

できること……？

そう！

健康でいてくれれば……？

そんな！？
やっぱり徒町にできることなんて何もない！？

んなこと言うんじゃねえよ。
少なくともアタシは、いつもDOLLCHESTRAのステージに救われてる。

へ？

……まった、今のなしで。

えへへ……ありがとう、ございます……。

だーーちくしょう！ 子犬みてえな顔でしょげるからつい！

えー、誰が好きなんですか？ やっぱりさやか先輩？

？

え！？

えええええ！？
徒町！？ さやか先輩じゃなくて！？

村野さやかは……ああいや、村野さやかサンは、
なんていうかこう、強すぎるっていうか。

かっけえけど。

アタシも、自分には何もねえって思ってるから。
そこから頑張ってるのが……好きなんだ。

そ、そうなんだ……。
徒町は、スクールアイドルの中でも、全然大したことないのに……。

徒町小鈴が、
何もないところから全力で足掻くスクールアイドルだからすげえんだよ。

少なくとも……アタシにはできなかった。

えっ。 スクールアイドル、なりたかったんですか？

……まあ、な。

じゃあさ！

一緒にやりましょうよ！ スクールアイドル！！

……はっ。

そっか、徒町小鈴ならそう言ってくれちゃうか。

言うよ！
なりたいと思った時になれるのが、スクールアイドルなんですから！

でももう良いんだ。 終わった話だから。

どうして？

……。

……うちの、学校……スクールアイドル部は、
実は厳しい入部試験があってな。

とてもじゃねえが、アタシじゃ無理だった。

そんな……徒町がそこの学校だったら、絶対に落ちてた……。

なに言ってんだ、お前なら楽勝だよ。
でもま、そんなとこ。 だからかな、アタシが徒町小鈴を好きなのは。

勝手に自分重ねてさ。 頑張れって思いたくなる。

……。

広実ちゃーん！ ちょっと来てー！！

ああ、今行く。
……じゃあな、応援してる。

あ、うん……。

入部、試験……か。