第4話『太陽を目指した背中』

PART 3

翌日、DOLLCHESTRAでの練習風景を描写。
小鈴は悩むことがいくつもあって、身が入っていない。
さやかが小鈴の鏡合わせで踊っている。いつも凄いさやか先輩を描写。
さやかの表情は少し険しい。小鈴の出来が悪い。
さやか
次、ステップ遅れず!
小鈴
はい!
と、踊る途中に小鈴がバランスを崩す。
小鈴
どわぁ!
倒れかける小鈴をさやかが抱き留める。
さやか
と。
小鈴
す、すみません。
さやか
……。
さやか
……今日はこのくらいにしておきますか。
小鈴
えっ。 まだ全然……。
あ、でもさやか先輩は忙しいですよね……?
寝耳に水の小鈴だが、別の理由に思い当たる。ここ最近の蓮ノ三連華は忙しそうだ。
さやか
わたしの問題ではありません。
今のあなたが、練習に身が入っていないようなので。
厳しい言葉をかけられて、小鈴は俯く。実際、心当たりはある。
小鈴
あう……それは。
さやか
……何かあったんですか?
頼ろうとして顔をあげ、それから小鈴は目を逸らす。
小鈴
あ、いえ、その……。
さやか
もしも困りごとがあるのなら、いつでも力になりますよ。
去年からずっとそうじゃないですか。
だが、今は状況が違う。小鈴は目を逸らしたまま呟く。
小鈴
でも……今のさやか先輩はやることもたくさん……。
間を縫ってこうして徒町の練習時間まで作ってくれてるのに。
やれやれとさやかが溜め息をつく。
さやか
何を言ってるんですか。
さやか
勘違いしているようですが、
小鈴さんとの練習は、わたしにとっても非常に有意義な時間です。
小鈴
えっ……?
さやか
誰かに教えるということは、
自分自身の中でも理解を深めることに繋がるんです。
さやか
いつか、小鈴さんが特訓を申し出てくれた時も……綴理先輩に諭されて、
わたし自身の成長のためにもなると思って引き受けたんですよ。
小鈴
……成長、できましたか?
さやか
もちろん。
小鈴さんとのあの日々があればこそ、今のわたしがあります。
小鈴
さやかせんぱぁい……。
小鈴
徒町も……徒町もです!
小鈴
あの特訓があったから、憧れのさやか先輩に教えてもらえたから、
今の徒町があります!
さやか
ふふ。 そう言ってもらえると嬉しいですね。
さやか
……では、今の小鈴さんは、
前の小鈴さんよりもやれるということを、見せてください。
ばっと小鈴が勢いよく頭を下げる。
小鈴
はい、練習続けてください!
めちゃくちゃ、身を入れて頑張ります!!
さやか
はい。 それでこそ小鈴さんです。
では……次、いきますよ。
小鈴
はい!
暗転を挟む。練習を終えたイメージ。
小鈴、ぼろぼろになるまで頑張ったあと。
小鈴
はあ……はあ……ふう……。
さやか
よく頑張りましたね。
さやか
わたしも、小鈴さんの全力を、ステージでどう受け止めたらいいか……
考えることもあって、非常に有意義でした。
小鈴
えへへ……良かったです……。
ふう、となんとか一息ついた小鈴が顔を上げる。
小鈴
さやか先輩。
さやか
はい?
小鈴
もし……もしもの話なんですけど。
今の徒町が……人に何かを教えることは、できるでしょうか。
さやかは少し目を丸くしてから、微笑む。
さやか
今の小鈴さんになら、できますよ。
綴理先輩と、わたしがそうであったように……次はあなたの番です。
小鈴
はい!
広実視点。いつものようにバイトをしている。
広実
うす……じゃあ、これで。 おつかれっした。
普段のテンションを垣間見せつつ、そこに遠くから声が聞こえる。
小鈴
……さーん……!
広実、まだ気が付かず、仕事の疲れに溜め息。
小鈴
広実さーん!!
ぶんぶん手を振りながら走ってくる小鈴にぎょっとする広実。
広実
え……!? おい、もう絡まない方が良いぞ。
突き放した理由を持ち出そうとする広実に、小鈴は首を振る。
小鈴
いやです! 徒町はまだ、なんのお礼もできてません!
広実
んなこと言われても……。
小鈴
徒町は……徒町は、広実さんをスクールアイドルにしにきました!
広実
ええ!? な、なんの話だ!?
小鈴
なりたいと思って……でもなれない……そんな風に言う広実さんに、
徒町ができることなんてないと思ってました!
小鈴
でも……ありました! 広実さんのために、徒町にできること!
小鈴
徒町は……広実さんと一緒に、スクールアイドルやりたいです。
広実さんと……スクールアイドル仲間に、なりたい!
ぐっと一歩近づいて。
小鈴
だから……一緒に頑張ろ!!
小鈴
学校でどんな厳しい入部試験があっても、乗り越えられるように。
スクールアイドル部の試験に合格できるように、さ!
広実
徒町小鈴……。
広実
んなこと言われても、アタシには……。
小鈴
うつむかないで! できないって思わないで!
徒町ごときでも、なれたんだから!
広実
それとアタシがなれることは何の関係も。
小鈴
スクールアイドルになったから、広実さんに会えたんだよ!
なにもない徒町なんかでも……広実さんに応援してもらえた!
小鈴
それは徒町がスクールアイドルだったから!
小鈴
だから広実さんも、そうなれるはず!
自分に何もないって思ってるなら、なおさら。
広実
……でも。
そっと自分の胸に手を当てて、小鈴は言う。
小鈴
徒町ね。
小鈴
追いつきたい人がいるんだ。
広実
小鈴
その人にも、言われたんだ。
誰かに教えることで、徒町自身も成長できるって。
小鈴
その言葉に背中を押されたのは本当。
広実さんを特訓するのは、徒町のためでもあるの。
広実
追いつきたい、人……。
小鈴
だから、どうかな。 それじゃ足りないかな。
もちろん、徒町ごときに教わっても、試験は難しいって言うなら――。
広実
そんなことはねえよ!!
広実
……分かった。
これが徒町小鈴のスクールアイドルとしての成長のためにもなるってんなら。
広実
もとからアタシはその意気に魅せられた女。
これから頼むぜ……小鈴師匠!!
広実は、ばっと頭を下げる。
小鈴
し、ししょー……!?
広実
そりゃ、教えを乞うんだからな。 師匠だぜ。
小鈴
ししょー。 ししょーかぁ……。
小鈴がゴンザレスししょーに頼るくらい、今の自分は頼られるのだ。責任の重さを改めて噛み締めて、小鈴は顔を上げる。
小鈴
分かった! 徒町、ししょー頑張ります!!
広実
ああ。
小鈴
次の入部試験は、いつ?
広実
……毎学期末にある。 だから次は……夏休みが始まる日だ。
小鈴
よぉし……頑張ろうね!!
ばっと小鈴が手を差し出す。
広実
おう……改めて、大道 広実だ。
世話になるぜ、師匠。
がしっと、広実が小鈴の手を取る。広実なりの覚悟の証。
広実
アタシはさ……めちゃくちゃ不愛想だし、
ステージじゃ緊張して、変なキャラ作って滑っちまうようなやつなんだ。
広実
あがり症ってやつなのかな。
そんな自分を、変えたい。
小鈴
閉じ込められちゃった時のあれ……あがり症だったんだ。
広実
こう、沈黙が苦手というか、
注目が苦手というか、よくわからないけどそうなっちまう……。
小鈴
緊張の仕方も人それぞれだなあ……。
広実
……そんな自分を、変えられるなら、変えたい。
小鈴
分かった。 徒町、頑張るよ!
広実
ああ。
そしてその繋いだ手のまま、広実は言う。これを言うまでは、手は離せない。
広実
一個だけいいか?
小鈴
広実
このことは……他の誰にも言わないでおいてもらえるか。
小鈴
えっ!? なんで?
広実
……今更アタシが、スクールアイドルを目指してること、
バレたくない相手が居てさ。
小鈴
そっか、分かった……頑張る!!
広実
ありがとう。
広実
じゃあ、明日からよろしくな、小鈴師匠!
小鈴
うん、頑張ろうね!! ちぇすとー!
広実
ちぇすとー!
ふたりのちぇすとが空に響いた。
広実が小鈴の前でレディバグのダンスを披露している。
小鈴
わん、つー、すりー、ふぉー。
わん、つー、すりー、ふぉー……決め!
広実
よっと!
びしっと最後の小鈴の決めポーズをする広実。
小鈴
うわー! すごいすごい!
本当に全部踊れるんだ……!
照れたように頬を掻く広実。
広実
や、そんな。 この曲は、何度も見たからだよ。
何度も何度も、繰り返し見るくらい好きだったんだ。
小鈴
レディバグが?
広実
ああ……一番。
小鈴
そっかあ……嬉しいな。 でも、やっぱり凄いよ。
何度も見たって、踊ろうと思ってないとできないんだから!
小鈴
……本当に、スクールアイドルやりたかったんだね。
そう言われて、面食らう広実。頬を掻いて目を逸らす。そうだ、スクールアイドルをやりたかったのは本当だ。
広実
まあその。 ……嘘ついたって仕方ないだろ。
小鈴
じゃあ……やっぱりあがり症の克服、かな?
広実
何をすれば克服できるのかは、分からねえが。
小鈴
任せて、徒町にできることをするからさ!
師匠として、きっと広実さんがスクールアイドルになれるように頑張る!
広実
ああ。 ついてくぜ、師匠。
何をすればいい?
小鈴
徒町は、苦手を克服する方法はひとつしか知りません!
広実
おお……つまり?
小鈴
慣れです!!
広実
まじかよ……!
広実が小鈴の前でレディバグのダンスを披露している。
小鈴
というわけでゲリラライブでーす!
小鈴
みんなー! 蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブの徒町小鈴です!
今日は突然のライブをしまーす!
小鈴
はっ、そうだね、ゲリラライブと突然のライブは一緒だよねえ、あはは。
失敗失敗。 そして、今日はゲストがいます!
ばっと小鈴が広実を示すも、広実はがちがち。
仕切り直すようにもう一度小鈴が広実を示す。
小鈴
……ゲストがいます! 広実さん、どうぞ!
広実
スクールアイドル見習いの、お、大道広、実……!
小鈴
うんうん。
空気に耐えきれずキャラを作り出す広実。
広実
だぴょん!
宇宙から来たうさぎ警察スクールアイドル、かわいくたのしく愛されたい!!
広実
ぴょんぴょん、ぴょー……ん……。
小鈴
……。
広実
……今の誰!?
小鈴
知らないよぉ……。
だめかー、という雰囲気で発されるぼそっとした小鈴の呟きに、顔真っ赤にしてキレ始めるひろみ。
広実
うさぎ警察スクールアイドルってなんだよ!!
属性盛りすぎだろどういうことだよ!!
兎追いしかの山、警察も追うから相性ばっちしってか……うるせえな!?
小鈴
落ち着いて! 落ち着いて広実さん!
広実
どうしてアタシはこうなんだ!!
うおおおお待てええええ人参泥棒~~!!
小鈴
逃げてるのは広実さんだー!!!
ライブを慌てて終わらせた小鈴が溜め息。
小鈴
はあ……。
力なく項垂れている広実。
広実
すまねえ、師匠……。 アタシは、無力だ。
広実
結局小鈴師匠の単独ライブ……
いや、単独ライブ自体は盛り上がって……それだけはよかった……。
小鈴
う、ううん。 気にしてないから大丈夫だよ!
でも……。
広実を見上げて、頬を掻く小鈴。
小鈴
な、なかなか頑固なあがり症だね!!
広実
ああ……。
小鈴
徒町、頑張るよ!
どうやったら克服できるか考えてみる!
笑顔の小鈴で〆。