第5話『桂城 泉』
LIGHT
泉 | ……。 |
泉 | ……ふぅ。 |
セラス | あー! |
セラス | なんで!? わたしがまた、いちばんじゃなかった……! |
泉 | は、早いね、セラス。 |
セラス | まさか、わたしに勝つために、部室に寝泊まりしてるの……!? |
泉 | ぜったいにやらないよ。 そんなことをしなくても、あなたには大抵のことは勝てるから。 |
セラス | たとえそれが事実だとしても悔しいことに変わりはないからね!? |
泉 | セラス。 |
セラス | なに!? |
泉 | 少し、場所を変えてもいいかな。 |
セラス | ……屋上? |
泉 | 伝統と芸術の学校。 蓮ノ空女学院。 |
泉 | 朝練にやってくる生徒たちも、 そのほとんどがきっと、夢を抱いているんだろうね。 |
泉 | ……羨ましいよ。 私は、彼女たちのようには、なれない。 |
セラス | ……泉? |
泉 | 私にできるのは、これが精一杯だ。 |
泉 | できたよ。 私の、歌詞だ。 |
セラス | ……見てもいい? |
泉 | もちろん。 |
セラス | ん……。 |
セラス | 泉、これ……。 |
泉 | 痛々しいだろう。 |
泉 | あなたには、見せたくなかった。 |
泉 | それが、私なんだ。 |
泉 | もし、スクールアイドルとして不適切だと思うなら、 また破棄してもらっても構わないから。 |
セラス | ううん。 |
セラス | これは間違いなく、泉の歌だよ。 他の誰でもない。 泉にしか書けない歌だから。 |
セラス | これでいこう、泉。 わたしも全力で、曲を作るから。 |
セラス | 泉の想いを、奈落の底まで、響かせよう! |
泉 | ……セラス。 |
泉 | 私はこれまで、闇の中を歩んでいた。 |
泉 | 絶望よりも昏い、諦観の道だ。 |
泉 | 私は変わることなどできないと、そう諦めながらも…… ほんの少し、ひとかけらの光を掴みたくて、 ずっと必死に、手を伸ばしていたんだ。 |
セラス | ……うん。 |
泉 | どこへ向かえばいいのかもわからなくて。 暗闇の森。 |
泉 | 行き場をなくしていた私の手を掴んでくれたのは、セラス。 あなただったんだよ。 |
セラス | うん……。 |
セラス | ……え!? |
泉 | ありがとう、セラス。 あなたが私の光だったんだ。 |
セラス | ま、待って! |
セラス | 今の、なに!? |
泉 | なにって。 |
泉 | 感謝の気持ちだけれど。 |
セラス | 素直すぎない!? |
泉 | 一度、しっかりと伝えておこうと思って。 あなたが私の、 |
セラス | だから待ってって! |
セラス | 誰!? 中身誰!? |
セラス | もしかしてドッキリ!? わたしにギブアップって言わせるために……! 夏合宿の仕返し!? |
泉 | 約束したね。 Edel Noteは一年限りの契約だと。 |
セラス | う、ん。 え……? 期間延長の申し出……? |
泉 | いや、それはしたくない。 |
泉 | あなたを縛り付けることに変わりはないし……Edel Noteに甘えていては結局、 私の情熱はあなた頼みのものになってしまうだろうから。 |
泉 | だから、新たに誓おう。 |
泉 | 今度は、契約じゃない。 私があなたとユニットを組みたい。 これが今の私の“願い”だ。 |
セラス | 願い……。 |
セラス | ……わかった。 |
泉 | 改めてよろしく、セラス。 |
泉 | 桂城 泉という名の怪物を、共に打ち倒そう。 |
セラス | 倒さないよ。 |
セラス | ぜったいに、救うんだから。 スクールアイドルという名の、光で。 |
泉 | ……そうか。 |
セラス | っていうか、まだ泉はスクールアイドルのスタートラインに 立ったばかりだからね! まだなんにも終わってないんだから! |
泉 | 別に、終わった雰囲気なんて。 |
セラス | なんか出してたよなんか! あと七か月! みっちりとスクールアイドルを好きにさせて見せるからね! |
泉 | それは楽しみだ。 ……本当に。 |
セラス | わたし曲作るために帰るからね! じゃあね泉! |
セラス | えっ……な、なに? まだわたしと一緒にいたいの……? わたしのことがすごく好きだから……!? |
泉 | いや。 まあ、好きは好きだけれど……寮に戻るよ。 |
泉 | なんだろうな。 無性に、二度寝をしたい気分なんだ。 きょうは、ぐっすり眠れそうだから。 |
セラス | あ、そ、そう。 |
泉 | セラス。 |
泉 | 私は、スクールアイドルを、好きになれるかな。 |
セラス | ていうか好きになってってるよ、もう。 自分が気づいてないだけで。 |
泉 | そうかな? |
セラス | そうだよ。 |
セラス | なんたって。 |
セラス | このわたしと、蓮ノ空のみんなが、一緒なんだから! |
泉 | そうか。 |
泉 | ……スクールアイドル、桂城 泉、か。 |
泉 | 悪くないね。 |