第8話『今はまだ遥か幽かな光』
PART 7
- 海莉
……ほんとによかったですね、大事がなくて……。
- 泉
ああ、まったくだ。
ただの寝不足と過労だなんて……。 - 海莉
うう、セラス先輩にがんばらせすぎたあたしも、責任を感じます……。
- 泉
……それは、あくまでもセラス自身が責任を負うことだからね。
- 泉
それより、すまないな。
あなたたちに瑞蓮祭の後片付けを任せてもいいのかい? - 海莉
はい! 桂城先輩は、セラス先輩のそばにいてあげてください。
- 海莉
あ……でも、あんまりセラス先輩のこと、怒らないであげてください。
言ってたんです。 - 海莉
『これは、泉のためだから』って。
- 泉
え?
- セラス
瑞河を救うのは、瑞河を救いたいから。
でもそれだけじゃなくて、泉のためでもあってね。 - セラス
泉はきっと、私の夢を叶えられなかったことを、ずっと、気にしてるから。
- セラス
スクールアイドルを好きになってもらうために、
その罪悪感を抱えたままじゃ、つらいと思うんだ。 - セラス
だから、今度こそ完全に瑞河を救って、
泉に心からスクールアイドルを好きになってもらいたいから。 - セラス
それに泉だって今、
蓮ノ空でがんばってくれてる。 - セラス
わたしはあの『桂城 泉』のパートナーなんだから、
これぐらいで弱音吐いてらんないよ。 - セラス
これはわたしにとっても『リベンジ』なんだから。
がんばらなくっちゃ。 - 海莉
あたし、感動しました。
セラス先輩と桂城先輩の、絆の深さに。 - 海莉
……それだけセラス先輩に想われてて、少し、羨ましいです。
- 泉
……。
- 海莉
あ! すみません!
瑞蓮祭のためにがんばってくださったおふたりに! - 海莉
じゃあ、あたし先に戻りますので!
失礼します! - 泉
……そうか。
……セラスが、そんなことを、言っていたのか……。 - 泉
……わたしはあの『桂城 泉』のパートナーなんだから、か……。
……そう、か……。 - 泉
なぜ私は、気づかなかったんだ。
同じじゃないか……。 先輩のときと……! - セラス
……あ。
- セラス
……泉?
- 泉
目を、覚ましたかい。
- セラス
……入院してた頃の夢、見てた。
- 泉
へえ。
- セラス
瑞河の、スクールアイドルのお姉さんに、ひどいこと言う夢。
あの頃のわたし、やさぐれてたから。 - 泉
あなたにも、そういう時期があったんだね。
- セラス
あったんだよ。
今は素直で明るくてかわいくて清楚で微塵も名残がないけど。 - セラス
えっと……泉は、どうしてここに?
- 泉
あなたの、付き添いさ。
- セラス
そっか……ごめんね、心配かけて。
- 泉
ただの過労、だそうだよ。
- 泉
ここ最近の無理がたたったらしい。 きょうは大人しく、休むといい。
瑞蓮祭の後片付けは、他のみんなが協力してくれている。 - セラス
ん……。
- 泉
……。
- セラス
……今度こそ、できる限りのことができたよね、わたし。
- 泉
そうだね。
- セラス
夢を叶えることができた。 これで、もう悔いはなくなった。
だから……次は、泉の番だね。 - セラス
あと、4か月。
精一杯、泉にスクールアイドルを好きにさせてみせるからね、わたし。 - 泉
もう、やめようか、セラス。
- セラス
……なにが?
- 泉
あなたと私の『契約』だ。
これ以上あなたは、なにもしなくていい。 - セラス
……どういうこと?
- セラス
えっと……。
もう、スクールアイドルのこと、大好きになったから? - 泉
いいや。
あなたは瑞河に戻るべきだ、セラス。 - セラス
……意味わかんないんだけど。
なんで、そんなこと言うの? - 泉
わかった。
それなら、私が蓮ノ空を辞めることにするよ。 - セラス
……泉?
待って、どうして。 - 泉
……あなたの無茶は、今に始まったことじゃない。
ここ一年ずっとだ。 - 泉
私の夢を叶えるためと言って、体に負担をかけてきた。
今回は大事には至らなかった。 だが、次がどうなるか、わからない。 - 泉
私とあなたは、一緒に居すぎたんだ。
- セラス
なんで……なんでそんなこと、言うの!?
- セラス
わたしたち、今年一年Edel Noteでがんばろうって、
そう誓ったでしょ!? - セラス
わたしはまだ、泉の夢を叶えてない!
こんなところでやめるなんて、言わないでよ! - 泉
そうだ! それがそもそもの間違いだった!
- セラス
泉……?
- 泉
私はあなたの希望にすがった!
だが、そんなことはするべきではなかった! - 泉
叶わぬ夢など、見るべきではなかった!
- セラス
わたしがちょっと倒れただけで、そんな、大げさなーー。
- 泉
大げさなものか! あなたはもともと病弱だった!
このままでは、また……! - 泉
わかったんだ。
- 泉
私が私自身の情熱を求めると、そばにいる誰かが、不幸になるのだと。
- 泉
誰も私についてくることは、できない。
あなたはなおさらだ、セラス。 - 泉
私はかつて……そんなひとの姿を、
この目で見ていることしかできなかった。 - 泉
同じ過ちを、繰り返してなるものか。
もう一度、あんな光景を目の当たりにするぐらいならーー。 - 泉
ーー私は、情熱などいらない。
- セラス
泉!
- 泉
さようならだ、セラス。
- セラス
待ってーー。
- セラス
あ……。
- セラス
なんで、泉……。
なんで……。 - コメント
暗い顔で席に座っているセラス。他部員、姫芽以外全員集合。
- セラス
……。
- 瑠璃乃
寮母さんに聞いてみたけど……昨夜は帰ってきてないって、泉ちゃん。
- 花帆
……そっか。
- さやか
無断外泊なんて、心配ですね……。
- 吟子
きっと、泉のトラウマのせいだと、思う。
- セラス
……え?
- 小鈴
吟子ちゃん、それ……。
- 吟子
仕方ないでしょ、こんなことになってるんだし。
勝手に話したことは、後で謝るよ。 - 吟子
……ちゃんと帰ってきたら。
- セラス
トラウマって、なんですか?
- 吟子
……セラスにも言ってなかったんだね。
- 吟子
泉はーー。
- セラス
……先輩が、倒れて……。
わたしのときと、一緒だ……。 - セラス
だから、泉はあんなに……。
- コメント
泉のトラウマの話を聞いて、不安そうに目を合わせる花帆とさやか。瑠璃乃が寂しそうにつぶやく。
- 花帆&さやか
……。
- 瑠璃乃
……ってことは、本当に戻ってこないつもり、なのかな。
- 花帆
そんな……だって、誰も悪くないのに!
- 小鈴
そうですよ! もしかしたら長野に忘れ物しちゃって、
それを探しに残っただけなのかも! - さやか
しかし、連絡も繋がりませんからね……。
- 小鈴
それは……! そう、ですね……。
- 瑠璃乃
……あれ? そういえば、姫芽は、きょうはどうしたの?
- 吟子
えと。
- 小鈴
授業が終わったら、なんか、すごい勢いで教室を出ていきました。
- 吟子
なのでてっきり、いちばんに部室に向かったのかと……。
- コメント
顔を見合わせる小鈴と吟子。首を傾げる。
- セラス
……泉。
- セラス
わたしは、いやだよ……。
こんな、終わり方……。